税務署の人事は毎年7月に一新され、新たな事務年度が始まる。そこで7月から新たに税務調査に向けた準備が始まることが多い。会社などの法人だけでなく、個人の場合でも、悪質な申告漏れは「実地調査」で指摘され、なかでも相続税の場合、税務署の職員が自宅をたずね、財産をチェックする。その結果、8割以上で申告誤りが指摘されているという。何をどうやって調べるのか。昨年まで東京国税局の職員だった小林義崇氏が解説する――。

主な申告漏れ財産は「預貯金」「土地」「有価証券」

相続税の調査に関する最新情報は、国税庁のウェブサイトにある発表資料で確認できる。昨年11月発表の「平成28事務年度における相続税の調査の状況について」によると、相続税の実地調査件数は1万2116件であり、そのうち申告漏れなどの非違(ひい)があったのは9930件。つまり、実地調査を受けたケースのうち、82%に何らかの非違があったということだ。

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国税庁の発表では、申告漏れのあった相続財産(総額3233億円)の内訳も発表されており、「現金・預貯金等」の1070億円が最も多く、「有価証券」の535億円、「土地」の383億円と続く。その他は具体的に示されていないが、生命保険金や死亡退職金などと推測される。いずれにせよ、相当な財産の申告漏れが、実地調査により把握されていることが分かるだろう。

なお、ここでいう「実地調査」とは、相続人や関係人のところに税務職員が直接出向いて聞き取り調査を行うような調査を指し、相続税の場合は一般的に9月頃から本格化する。その他に、簡単な計算誤りについて電話連絡で是正を求めるような調査もあるが、今回は、「実地調査」を取り上げて解説する。

相続税の実地調査は、誰が、どこで立ち会うのか

相続税の法定申告期限は、被相続人が死亡したことを知った日から10カ月以内である。この法定申告期限から1年以上たってから実地調査が行われるのが一般的だ。つまり、被相続人が亡くなってから2年程度たってから初めて実地調査が行われることになる。

実地調査の対象になるのは、税務署による審査の結果、申告に誤りがあると“想定される”場合であり、相続税を申告したすべての人に実地調査がなされるわけではない。対象に選ばれると、まずは、税務署の職員から、申告書の作成を委任した税理士や相続人に連絡がなされ、実地調査を行う場所や日時を決めることになる。

実地調査を行う場所は、被相続人が生前住んでいた自宅で行われるのが一般的だ。実地調査の目的のひとつに、被相続人が生前管理していた財産をチェックするというものがあるからである。そのため、調査の立ち会いは、被相続人と生前同居していた親族が対応するケースが多い。

なお、税務調査に立ち会うことができるのは、課税の対象となる本人か、委任した税理士に限られる。相続税の場合は相続人であれば課税の対象者となるため、希望すれば相続人全員で実地調査に立ち会うこともできる一方、相続人でなければ、親族であっても調査に立ち会うことは許されない。