家族の通帳までチェックされる理由

現物調査でチェックされるポイントは複数あるが、特に税務職員が注視するのが「預貯金」だ。国税庁の発表資料でも示されたように、預貯金の申告漏れは非常に多い。

税務職員がチェックするのは被相続人名義の通帳に限らない。時には家族名義の通帳であっても提示を求められることがある。というのも、かつては銀行などの口座を仮名や家族の名前で作ることもできたため、名義は違っても実質的には被相続人の財産というケースがあり得るからだ。

また、被相続人から、生前に相続人へ預金が移っている場合も、やはり問題になりかねない。相続税には、被相続人の死亡前3年以内に贈与をされた財産は相続税の計算に含めるというルールがあるからだ。

こうしたチェックがなされることから、被相続人の預金から生前に大きな出金がある場合は、そのお金がどこに流れたかをきちんと説明できるようにしておくといいだろう。

なお、実地調査の際に、たとえば被相続人の財産に関する資料を意図的に隠していたような場合、後々問題となることがある。税務職員は、金融機関や証券会社などに照会し、取引の状況を調べることができるため、時間をかければ、隠された相続財産であっても発見することができるからだ。

そうした調査の結果、意図的に相続財産を隠して少なく申告していたと認められるような場合、追徴税としてもっとも重い「重加算税」が課せられる可能性もあるため、下手に財産を隠すのは禁物だ。

調査が終わると、申告と納税をやり直す

相続人への実地調査を経て、税務職員がその他に必要な調査や検討を終えると、「調査結果のお知らせ」が交付または送付される。もちろん、当初の申告に誤りがなかったとの結論が示されることもあるが、冒頭で説明したように8割以上は何らかの誤りがあるため、本来の税額がここで示される。

申告に誤りがあった場合、申告のやり直しとして「修正申告書」の提出を求められるが、これは、あくまでも自主的なものだ。ただし、修正申告書の提出に応じなければ、「更正処分」がなされ、強制的に納税義務が課されることになる。

修正申告を提出し、または更正処分を受けると、次に必要なのは「納税」だ。本来納めるべきだった税額に不足する金額はもちろん、非違の内容によって課される「加算税」や「延滞税」といった追徴税も納めなくてはならない。これらの納税が済めば、基本的には相続税に関する手続きはひととおり終わることになる。

なお、更正処分や追徴税など、税務署等による処分に不服がある場合は、税務署長等に対して「再調査の請求」を行うか、国税不服審判所長に対して「審査請求」を行うことにより、処分の適否を争うこともできる。

いずれにせよ、相続税は少なくない税負担が生じるため、さらに追徴税を課されないよう、あらかじめ正しく申告しておきたいところだ。

小林義崇(こばやし・よしたか)
フリーライター
1981年福岡県生まれ。西南学院大学商学部卒。2004年に東京国税局の国税専門官として採用。以後、都内の税務署、東京国税局、東京国税不服審判所において、相続税の調査や所得税の確定申告対応、不服審査業務等に従事する。2014年に上阪徹氏による「ブックライター塾」第1期を受講したことを機に、ライターを目指すことに。2017年7月、東京国税局を辞職し、フリーライターに。
(写真=iStock.com)
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