「趣味は何か?」プライベートに踏み込む調査

相続税の実地調査は、午前中に相続人からの聞き取りからスタートし、その後通帳などをチェックする「現物調査」が行われるのが通常の流れだ。たいていは1日で終わるが、チェックする資料などが多ければ数日かけて行われることもある。

最初に行われる聞き取り調査では、被相続人の生い立ちや家族関係、趣味など、プライバシーに踏み込んだことを聞かれることも少なくない。もちろん、これは興味本位ではなく、相続税の調査においては欠かせないポイントだからだ。

所得税などと違い、相続税は被相続人が亡くなった時点の“財産”に対して課せられるものである。そのため、「どのようにして財産を築いたのか」という観点から調査が行われ、プライバシーに関わることにも踏み込まざるを得ない。

たとえば、被相続人に愛人がいたという情報を把握すれば、相続財産の一部がその愛人に流れているのではないかという疑義が生じる。また、お金のかかる趣味があったのであれば、申告した相続財産が少ない理由になるかもしれない。このように、さまざまな情報が相続税の判断につながる可能性があるため、相続人から聞き取る内容は多岐にわたる。

こうした聞き取り調査の内容に、特に重要な証言があった場合、「質問応答記録書」といった文書を税務職員が作成することになる。質問応答記録書は、税務職員と相続人との口頭のやりとりを文書に残し、双方が文面を確認したうえで署名押印するものであり、その後の税務処分の根拠として扱われる。

“ガサ入れ”は、あくまでも同意のもとで

次に、「現物調査」について説明する。現物調査では、通帳や保険証書など、相続税の申告をする元となった資料をチェックしていくこととなる。通常の実地調査では、現物調査はあくまでも相続人の同意のもとで行われるため、勝手に引き出しを開けられたりすることはない(裁判所の許可を得て行われる強制調査の場合を除く)。

現物調査の際、財産に関連するものだけでなく、その“保管場所”を見せるように求められることがある。相続税の調査の主な目的は、申告書に“計上されていない”財産を発見することだからである。このため、「被相続人の日記を見せてほしい」「クローゼットの引き出しの中を見せてほしい」といった要望が税務職員から出る可能性もある。

なお、現物調査は同意がなければできないことから、「これは見せられない」と断ることもできる。しかし、むやみに調査に非協力的だと、「何かを隠しているのでは」といった心象を持たれ、さらなる調査が行われる可能性があることは考慮しておきたい。