「たかが中学受験、これで人生が決まるわけじゃない」

残念ながら、憧れ続けた第1志望には不合格でした。厳しい受験だと本人も両親も私も感じていましたが、彼女は不合格が分かったときに大泣きしました。もっと早くSOSに気づければチャンスがあったかもしれない、もっと合格する可能性を高められたかもしれない。塾講師として自責の念を感じずにいられませんでした。

※写真はイメージです(写真=iStock.com/mamahoohooba)

第1志望の不合格が分かった日の夜、私はこうメールしました。

「君の第1志望に合格させられなかったのは残念だし悔しい。でも明日は俺(筆者)の第1志望だから頑張って合格してほしい」

結果、彼女は「私の第1志望」に見事合格しました。私は最低限の責任を果たせたという思いでした。彼女が笑顔で塾に報告に来てくれたことを忘れることはないでしょう。

▼塾講師には絶対言えない「言葉」で娘を救った母親

模擬試験になると頭が真っ白になり、まったく問題が解けないという厳しい状況に陥った彼女が、なぜ本来の実力を取り戻すことができたのか。振り返ってみれば、大きな要因がありました。

頑張っているのに結果がでない。そんなときに親が「自分で壁を越えないとダメよ」とか「○○くんはできているのに、あなたは……」という声かけは厳禁です。特にコツコツタイプに対して、結果を否定するような声かけは逆効果になります。

父親が積極的な分、母親は泰然としていて「なるようになる」という感じでした。そのご両親のバランスが、彼女の心の糸を切らさず、受験に立ち向かう力になったと思います。彼女の母親は、私には言えないこんなセリフを言ってくれました。

「たかが中学受験じゃないの」
「受かるにこしたことはないけど、別にこれで人生が決まるわけじゃない」

「コツコツタイプ」の子は、その長所ゆえに、かえって自分を追い込んでしまうところがあります。そんな時は、この母親のように、いい意味で神経が図太く、腹の据わった感じで子どもに対処していく。親の声かけひとつで、劇的に子どもは変わり、合格する可能性を高められるのだと感じます。

物事に動じないタイプに見えたその母親ですが、国立校の合格発表を見に行き、さっそく私に電話報告をしてくれました。でも、その声は嗚咽でよく聞き取れませんでした。

(写真=iStock.com)
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