「大組織」の時代でも失われない価値

ここまで述べてきたのは、ほとんどが20世紀初め頃までの人です。「彼らが成功できた時代とは背景が違うから、現代には通用しない」という意見があるかもしれません。では、彼らの成功物語は、「古き良き時代の牧歌的挿話」であり、単なるノスタルジーにすぎないのでしょうか?

20世紀になって大組織の時代になると、社会の条件が大きく変わったことは間違いありません。学歴社会が形成され、高学歴でないと組織に入って仕事をすることが難しくなりました。組織化、官僚化が進めば、独学だけで専門家集団のトップに立つのは、難しくなります。また、技術開発には多額の資金が必要となり、知の制度化が進むと、個人発明家の役割は限定的になります。

このような側面があることは、否定できません。しかし、だからと言って、彼らの経験が現代社会で無意味だとは言えないのです。彼らが活躍した時代にしても、高学歴の人々が勢力を持っていました。独学の人々は、こうした環境にめげず、権威ではなく、自分の力を信じたことによって成功を手にしたのです。

独学者だからこそ新しい発想ができます。独学の真骨頂とは、「常識的な考えにとらわれている人ならやらないことを、試みる」ということなのです。ドイツの高名な数学者ゴットフリート・ライプニッツ(1646年-1716年)は、「独学のおかげで、空虚でどのみち忘れてしまうような、また根拠ではなく教師の栄誉を意味するような事柄から免れ、どの学問でも熱心に諸原理に至るまで探求することができた」と言っています。

因習的な考えから脱却して、新しい発想で考える。閉塞的な日本の現状を打破するには、こうしたことこそが最も重要です。

独学だからこそ最先端に追いつける

もう一つ重要なのは、新しい動きが始まっていることです。

時代の変化が激しければ、独学を続けないかぎり、最先端には追いつけません。また、大きな変化が起これば、これまで誰も手をつけていない世界が広がります。そこで新しい事業を起こすには、独学で身につけたノウハウで、手探りで進むしかないのです。