ユーザーの知恵を製品開発に生かす良品計画の仕組み

実はそうした取り組みを他社に先駆けて実践し、成果をあげている企業がある。無印良品ブランドで世界展開している良品計画がそうだ。同社は誰もが製品開発に参加でき、製品化の判断まで消費者起点で行う製品開発を行い世界から注目されている。

インターネット技術の発達で不特定多数の消費者が企業の新製品開発のアイデア創造に参加できるようになったのは00年前後である。無印良品はその流れに乗り、00年から製品アイデアの創造を社外の不特定多数の消費者に委ねる新しい方式を採用した。

同ブランドはネット上に消費者参加型の開発サイトを立ち上げ、消費者なら誰でも自分が欲しいと思う製品案を投稿したり、製品候補案に対して投票できるようにした。開発過程は誰でも閲覧でき、製品化の決定も消費者による投票結果に愚直に従うというものにした。

無印良品が採用した製品開発の手法は製品開発のアイデアを群衆(crowd)から調達(sourcing)するという意味でクラウドソーシング(crowdsourcing)と呼ばれている。ではクラウドソーシングは教科書的なマーケティング調査(製品開発法)や本連載で紹介したリードユーザー法とどこが違うのか。少し回り道になるが整理しておこう。

まずクラウドソーシングは製品のアイデア創造段階にユーザーを組み込むこと、ニーズ情報だけでなくソリューション情報もユーザーから収集するという点で伝統的マーケティング調査と異なる。この点についてはリードユーザー法もクラウドソーシングと同じだ。

図表 クラウドソーシング、リードユーザー法、伝統的マーケティング調査手法の比較

図表 クラウドソーシング、リードユーザー法、伝統的マーケティング調査手法の比較

第2に、クラウドソーシングは他の2つの手法よりはるかに多様で多数のユーザーを対象に情報を収集する。伝統的手法はターゲットを絞り、そのターゲットを中心にランダムサンプリングしたユーザーから情報を収集する。また、リードユーザー法はリードユーザーと呼ばれる特定のユーザーをピラミッディングという手法で探し出し、彼(彼女)らから情報を収集する(リードユーザーとピラミッディングについては本連載『売れない時代の必須科目「ピラミッディング」入門』の回で紹介した)。

他方でクラウドソーシングはインターネットを通じてニーズ情報や製品案(ソリューション情報)を募集する。伝統的手法やリードユーザー法よりもはるかに多様で多数のユーザーに対して広域探索(broadcast search)をかけるのである。

その結果、多様・多数なユーザーの中から自己選択(self-selection)したユーザーたちが自分の求めるニーズやそのニーズに対するソリューション情報を集団的に投稿してくることになる。

クラウドソーシングでは誰でもいつからでも製品開発に参加することができるようになっている。そこで生まれるユーザーの多様性が社内専門家の能力を超えた新規性や独自性の高い製品を生み出すことになるのだ。

さらにクラウドソーシングでは製品過程を誰でも閲覧できる、つまりオープン化されている場合が多い。伝統的製品開発やリードユーザー法では開発過程をユーザーが見られる場合はほとんどない。開発過程のオープン化もクラウドソーシングの特徴の一つだ。

「開発過程のオープン化」にはプロモーション効果も

開発過程をオープンにすることは開発過程の閲覧者に対する当該開発製品の認知度を引き上げる。そうすることで当該製品の購入に対してユーザーの好意的態度を形成することができ、ユーザーの当該製品の購入を促進する。

良品計画で当時、クラウドソーシングによる製品開発を担当していた西川英彦さん(現・法政大学教授)の分析によれば、製品化された製品のアイデア投稿者であっても製品支持を表明した投票者であっても開発製品を必ずしも購入するわけではないという。投稿、投票をしていない者も含めて、製品を購入するかどうかはむしろ開発過程をどれだけ閲覧しているかによるのだそうだ。

そうした状況で開発過程のオープン化は消費者に対してプロモーション効果を発揮する。効果を見越した無印良品はメール・ジャーナルの頻繁な配信や開発過程の全容を短時間で理解できる要約文の作成を行い、閲覧者や閲覧量を増やす工夫を行っていたという。

これまで説明してきた、オープン化した製品開発に多様で多数の消費者を組み込むクラウドソーシングは、はたして従来型の製品開発と比べて高い成果をあげるのだろうか。

筆者は西川さんと共同で製品分野、販売開始時期、チーム・メンバーを同一にして無印良品における従来型とクラウドソーシングの製品開発成果を比較した。結果は我々の予想を超えるものだった。

まず開発された製品の特徴では、競合品に対する新規性、顧客ニーズの新規性でクラウドソーシングのほうが従来型より優れていた。また、初年度の売り上げ実績、粗利率、製品ライン全体への展開可能性、戦略的重要性でもクラウドソーシングのほうが従来型よりも高い成果を実現していた。平均値で比較すると新方式は旧方式より初年度売上額で3.8倍、粗利率で1.2倍の実績をあげていた。

クラウドソーシングの有効性が実証された瞬間だった。

(図版作成=平良 徹 PANA=写真)