「意識高い系」といわれる優秀層の学生が、大企業より「メガベンチャー」を選ぶようになっている。メガベンチャーとは、大企業並の規模や知名度がありながら、体質や事業はベンチャーという企業。その代表例はサイバーエージェントだ。慶應義塾大学特任教授の横田浩一らは「メガベンチャーの人事戦略が、『自らの能力で生きていけること』を望む学生を惹きつけている」という――。

※本稿は、栗木契、横田浩一編著『デジタル・ワークシフト』(産学社)の一部を再編集したものです。

情報の嵐のなかに放り込まれた求職者

就職活動は、意思決定の連続としてとらえることができる。一般に意思決定は、(1)情報の収集(決定に必要な情報を集める)、(2)代替案の創出(自分にとって選択可能な選択肢をリスト化する)、(3)代替案の評価と選択(選択肢のなかで、最もよさそうなものを選ぶ)というステップからなる一連のプロセスとなる。かつての就職活動においては、学生はまさにこの各ステップを行き来しながら活動を進めていた。

栗木契、横田浩一編著『デジタル・ワークシフト』(産学社)

就職支援ナビサイトやその前身である「リクルートブック」の登場以前にあっては、求職時に学生が手に入れる情報は、大学の掲示板などから得られる極めて限られた情報であり、自らが情報を入手できない企業は「存在していない」に等しかった。そのため、エントリー段階であれ、選考段階であれ、求職者が大量の代替案、あるいは無数の選択肢を前にして思い悩む、ということは起こりえなかった。

しかし、デジタル時代の就職活動においては、(1)情報の収集の効率が飛躍的に高まった一方で、求職者は情報の嵐のなかに放り込まれることにもなり、(2)代替案の絞り込みが極めて困難となってしまった。デジタル時代以前よりも多様で多量な情報をさまざまなチャネルからキャッチできるようになったため、学生は求職にあたって必要な情報を幅広く入手できるようになった。

その反面、この情報の大量化は、どの情報を重視し、どの情報を軽視するかという高度な処理能力と取捨選択のためのコストを求職者に課すことにもなったのである。経営学者のJ.R.ガルブレイスはかつて、自らが有する情報量と、自らが処理しなくてはならない情報量の差を「不確実性」と呼んだが、デジタル化が就職活動にもたらしたのは、まさにこの不確実性だったのである。

「就社」から「就職」へ――安定を実現する2つの方法

このような不確実性の高い環境において、求職者たる学生はどのように就職活動をしているのだろうか。やはり、不確実性が高い環境下では、学生は「安定的な大企業」を志向するようになるのだろうか。

一口に「就職活動」といっても、求職者は無意識のうちに、それをさまざまな角度からとらえている。近年では、企業で働くことについて、今までの「就社」(常見陽平『「就社志向」の研究―なぜ若者は会社にしがみつくのか―』KADOKAWA、2013)の考え方から、「就職」として考える学生が顕著に現れてきている。

ここでいう就社とは「その企業に入る」という意識であり、就職は「その職業に就く」という意識である。類似の切り分け方としては、ジェネラリスト志向かスペシャリスト志向かという分類もある。もちろん、就社派と就職派にきっぱり分かれるほど学生の意識は単純ではなく、両者を追い求める学生も多い。ここで取り上げたいのは、そのなかにあって、就社ではなく就職への意識の比重を高める学生が増える傾向にあるという変化である。