優秀な人材ほど「次」や「先」を見ているものである。だからこそ企業は、人材を囲い込むのではなく「循環させる」という前提に立ち、他社にいる就職型の人材やデジタル人材にとっての「次」や「先」として自社が選ばれるようになることを目指さなくてはならない。

“Make by Make, Buy by Make”では、囲い込みによる「クローズドなMake」ではなく、人材の循環を前提とした「オープンなMake」が志向されていることに注意したい。前述のサイバーエージェントの人事制度は、組織からの退出をポジティブにとらえることで就職型人材を惹きつける「オープンなMake」の好例であろう。

人材の動的平衡、人材のプラットフォームとしての企業観が、デジタル時代の人事戦略のカギなのである。自分の能力が伸びる環境(Make)がオープンに用意されている。就職型人材、デジタル人材が行きたいのはそうした企業だ。

欠点も含めたありのままの情報を提供する

Makeに力を入れているとの情報を打ちだしていく際には、RJP(Realistic Job Preview)を意識した取り組みが欠かせない。RJPとは、現実的な仕事情報の事前開示のことを指す。企業が採用活動に際して、求職者に仕事や組織の実態について利点だけでなく、欠点も含めたありのままの情報を提供することである。すなわち、RJPとは、自社ではどのようなことが提供でき、また提供できないのかをきちんと伝えようとする企業の姿勢である。

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RJPにもとづく求人情報は、求職者にとっての不確実性を低減させ、本章冒頭で論じた問題の解決に貢献する。また、入社後のリアリティショックを和らげる効果、自社が求めていない人材のセルフスクリーニングが行われる効果なども期待できる。何より、自社と求職者との信頼関係を築くうえで、RJPは当然行われなくてはならないものである。

また、企業内における採用と育成の接近も重要となる(服部泰宏『採用学』新潮選書、2016)。採用と育成の接近は、効果的な採用活動の実施を支える。具体的には、採用では何を見る必要があり、また何を見る必要がないのかがわかり、採用活動をより妥当性の高いものにできる。

仮に、採用する人材に求めたい能力要件を「変わりやすい能力」と「変わりにくい能力」とに分類できるとしよう。「変わりやすい能力」は、企業は採用後の育成において伸ばせばよいため、採用時には「変わりにくい能力」をきちんと評価していくことが肝要である。「変わりやすい能力」への評価に引っ張られて、肝心の「変わりにくい能力」の評価がブレることは、採用面接においては失敗とさえいえる。

採用においては、「何を見るか」以上に「何を見ないか」を決めることが重要なのである。こうした観点をもとに採用と育成の接近を行うことは、魅力的なMake環境をつくるうえでも、RJPを実施する上でも、必要不可欠なものとなるだろう。

横田浩一(よこた・こういち)
横田アソシエイツ代表取締役、慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科特任教授。
日本経済新聞社を経て、2011年より横田アソシエイツ代表取締役。2015年より應義塾大学特任教授。企業のブランディング、マーケティング、CSR、CSVなどの分野に係ると共に、地方創生、SDGsに携わる。共著に『愛される会社のつくり方』『明日はビジョンで拓かれる』『ソーシャル・インパクト』など。
岡本和之(おかもと・かずゆき)
横浜国立大学大学院国際社会科学府修士課程修了(経営学)。経営行動論、人的資源管理論を専攻し、2018年修了後、経営コンサルティング会社勤務。
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