ポイントは脂質の摂り方にあり?
最後に、地中海食はなぜ心血管リスク(心筋梗塞や脳卒中など)を減らすなど身体に良いのでしょうか。栄養学的な特徴の1つは、脂質の摂取方法にあります。
「脂質」といっても、実は様々な種類があります。その代表例が不飽和脂肪酸・飽和脂肪酸です。化学構造による分類なのですが、かなりザックリと話をすると、以下のような特徴があります。
・魚や植物油に多く含まれる。常温でも液体のことが多い。
・特徴として、心筋梗塞のリスクを減らす(*6)、LDLコレステロールを下げる(*7)、などの効果が知られている。
【飽和脂肪酸】
・肉の油、バターなどに多く含まれる。常温だと、個体のことが多い。
・特徴として、LDLコレステロールを高くしてしまう可能性が指摘されている。
これを見て気づかれた方も多いかと思いますが、地中海食には不飽和脂肪酸を多く含む内容(オリーブオイルやアボガドなど)が多く含まれ、一方で飽和脂肪酸を多く含む牛肉や豚肉は少ないのです。先程挙げた地中海食のメリットは、こういった良質な脂質のとり方にも関連があるかもしれません。
地中海食をなかなか完璧に実践することは難しいかもしれませんが、普段の食事で、オリーブオイルやナッツのほか、フルーツ、海鮮類を「ちょっと足し」するだけでも、脳梗塞や心筋梗塞などの心血管イベントを抑えたり、適正体重に近づけたりする一歩になるかもしれません。
このように、毎日の食生活を少し見直すことで、ご自身が病気になるリスクを下げることができます。救急現場にいると、心停止や脳卒中になってしまわれた方が毎日搬送されます。しかし、そうなってしまっては既に遅いのです。せっかく頑張って定年間際まで頑張られたのに、そこで脳卒中を起こして寝たきりになってしまっては、元も子もなくなってしまいます。そのような悲劇を少しでも少なくするために、次の食事の一品を変えることで未来のリスクを下げていきませんか。
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参考文献:
(*1)De Lorgeril, Michel, et al. "Mediterranean alpha-linolenic acid-rich diet in secondary prevention of coronary heart disease." The Lancet 343.8911(1994): 1454-1459.
(*2)Estruch, Ramón, et al. "Primary prevention of cardiovascular disease with a Mediterranean diet." New England Journal of Medicine 368.14(2013): 1279-1290.
(*3)Shai, Iris, et al. "Weight loss with a low-carbohydrate, Mediterranean, or low-fat diet." New England Journal of Medicine 359.3(2008): 229-241.
(*4)Valls-Pedret, Cinta, et al. "Mediterranean diet and age-related cognitive decline: a randomized clinical trial." JAMA internal medicine 175.7(2015): 1094-1103.
(*5)Bach-Faig, Anna, et al. "Mediterranean diet pyramid today. Science and cultural updates." Public health nutrition 14.12A(2011): 2274-2284.
(*6)Pan, An, et al. "α-Linolenic acid and risk of cardiovascular disease: a systematic review and meta-analysis-." The American journal of clinical nutrition 96.6(2012): 1262-1273.
(*7)Mensink, Ronald P., and Martijn B. Katan. "Effect of dietary fatty acids on serum lipids and lipoproteins. A meta-analysis of 27 trials." Arteriosclerosis, Thrombosis, and Vascular Biology 12.8(1992): 911-919.
オンライン健康相談「first call」相談医
医師/聖路加国際病院救急部/東京慈恵会医科大学分子疫学研究部。2007年東京慈恵会医科大学入学後、世界保健機関(WHO)ジュネーブ本部インターンなどの経験を経て、13年より聖路加国際病院に入職。14年度、聖路加国際病院ベストレジデント。現在は、聖路加国際病院・救急部医師として臨床に従事する一方、東京慈恵会医科大学分子疫学研究部にて研究を行う。15年にMediplat(現メドピアグループ)の設立に参画し、オンライン健康相談サービス「first call」の企画・運営も行っている。