「こんなに一生懸命やっているんだから、十分だろう」
なぜ、このようなギャップが生まれたのでしょうか。製品やサービスの品質には、「提供品質」と「知覚品質」という2つの側面があります。提供品質とは、企業が実際に提供している製品やサービスの品質です。対して知覚品質は、顧客が製品やサービスに対して“感じる”品質です。2つの品質の間には、ギャップがあることがあります。
マクドナルドの場合、企業側は「こんなに一生懸命やっているんだから、十分だろう」と思っているのに、顧客側はそう思っていなかったということです。このギャップを埋めることが、当時のマクドナルドの課題でした。
「いいことをしても誰も見ていない」
私のゼミでは、この調査結果を踏まえて、16年12月、マクドナルドのカサノバ社長や下平副社長に、今後の成長戦略について提案を行いました。具体的には、顧客が不満を抱いている「食の安全」「清潔さ」そして「接客」について、提供品質と知覚品質のギャップを埋めるために、次のような提案を行いました。
(1)食の安全
マクドナルドの食の安全に対する取り組みは、日本の外食産業の中でも高い水準にあります。しかし、当時はその取り組みが消費者には十分に理解されていない状況でした。提案の際、原材料の品質管理を担当するクオリティ・アシュアランス部(当時)の山下安信氏が「悪いことはすぐに伝わる。でも、いくらいいことをしてホームページで紹介しても、誰も見ていない」と嘆いていましたが、まさにこの言葉に、提供品質と知覚品質のギャップが表れています。
では、実際の取り組みと消費者の認知のギャップをどのように埋めればいいのでしょうか。食の安全は、顧客にとっては当然のことです。したがって、そのことをいくら前面に出しても、消費者は関心を持ちません。さり気なく伝えるための工夫が必要です。
ひとつの方法として提案したのが、SNSを利用したバズマーケティングです。食の安全に関して消費者が抱くさまざまな疑問に、カサノバ社長が自ら答える動画を来店客に見てもらいます。そのために、店舗の全席にNFC(近距離無線通信)タグを内蔵したステッカーを貼り、顧客がスマホをかざすだけで動画を見られるようにします。それをSNSで拡散してもらうことで、食の安全に対する認知を促します。