驚異的な軽さとクッション性の秘密は「カーボンプレート」

まずは「厚底」の秘密について。レース用シューズは1gでも軽く、というのが従来のセオリーだった。だがズームヴェイパーフライ4%はまったく逆のアプローチをとった。それはどうしてなのか。

 
新色「ズームヴェイパーフライ4%」の道路接地面の画像(写真提供=ナイキ) 

「シューズのヒントはアスリートの言葉ですね。クッショニングがしっかり装備されているシューズがほしい、と(昨季、世界最高記録を出した)キプチョゲ選手などから要請があったんです」(加部さん)

マラソンに超高速化をもたらしたアフリカ勢は、未舗装の道でトレーニングを積んでおり、路面の硬いロード(アスファルト)を嫌う。このためクッション性をもちながら、推進力も発揮できる“新発想”のシューズ作りがスタートした。

このシューズは最も厚い部分で約4cmのソールがある。ソールは大きなスプーン状のカーボンファイバー製プレートを特殊素材で挟む3層構造になっている。厚底といっても重量は28センチの靴で184グラム。手に持つと多くの人がその「軽さ」に驚くほどだ。

「カーボンプレートがなければ、柔らかいだけですが、カーボンがあるからこそ、反発が出て、ほどよいクッションになる。このバランスが難しいんです。カーボンが屈曲するのに耐えられるようなクッショニングがあり、しかも軽量という新素材(ズームXフォーム)に出会わなければ、ズームヴェイパーフライ4%は誕生しなかったと思います」

▼「下り坂を走っているみたい」箱根駅伝で40人が履いた

このシューズの特徴は爪先がせりあがっていることだ。これを履いて重心を前へ傾けることで、前足部がググッと曲がり、もとのかたちに戻るときに、グンッと前に進む。南アフリカ・フリーステート大学の運動生理学者ロス・タッカーは、「ランニング効率が4%高まると、勾配が1~1.5%の下り坂を走るのに相当する」と指摘している。事実、シカゴマラソンを制したゲーレン・ラップ(米国)は、「まるで下り坂を走っているみたい」と表現している。

2018年正月の箱根駅伝では、10人中8人がこのシューズを履いた東洋大学が往路を制して、総合2位。出場大学の選手全体では40人近い選手が着用していたことで、前年は4位だったナイキのシューズ占有率は、今年アシックスを抜いてトップになった。

もともとナイキのランニングシューズはトップランナーでのシェアは高くなかったが、状況は一変。各地の大会でナイキのブースを出すと、これまでの来客は、10~20代の若い世代が中心だったものの、40~50代ランナーから「あの厚底はありませんか?」という問い合わせが殺到するようになったという。