経済政策「アベクロ・バズーカ」は時代錯誤だ
「政府に何を望むか」という世論調査をすると、大概どこの国でも「景気対策」が1位に上がる。しかし、実際は「景気対策」と口にする癖がついているにすぎない。先進国の国民生活は基本的に充足しているから、人々は金利やマネタリーベースに反応しにくい。景気対策に応えるような消費動向を示さないのだ。製造業にしてもジャストインタイム方式などで需要が上向くことがわかってから部材を注文するので、金利が安いからといって在庫をいそいそ積み増すようなこともなくなった。
にもかかわらず、頭の中が20世紀の経済で止まっている政治家は景気刺激を国民が求めていると勘違いして、大規模なQE(量的金融緩和)を行う。しかしばらまかれた資金が国内経済に吸収されて実需に向かうことはほとんどない。「アベクロ・バズーカ」と呼ばれる経済政策が低欲望の日本社会に対しては時代錯誤かつ実態把握不足で効果が見られないのも、これが原因だ。
高欲望と言われてきたアメリカ社会もQEが長く続いたためにマクロ政策が実需に直結しないようになっている。低金利でもこれまでのように家がバカバカとは建たない。無理して住宅ローンを組まないからサブプライム危機も起こらないのだ。
QEで放出された資金は実需に向かわずにどこにいくのかといえば、土地や株、あるいは資金が不足していて金利の高い途上国に向かう。2017年、株価上昇率が世界で一番高かったのは政治的に問題があるブラジルとフィリピンだった。
トランプ大統領が推し進めているのも20世紀の古い経済政策で、減税したうえに予算を過剰に積み増しているので、不動産や株に余剰資金が回って実体経済との乖離がどんどん大きくなっている。
日本でも実需がないので日銀は国債を腹いっぱい食べているし、GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)などの年金ファンドは株を大量に買っている。日銀はETFも買い付けるようになって、国を挙げてPKO(株価維持政策)を推進中だ。当然、金融経済と実体経済の乖離はアメリカと同じく大きくなっているわけだ。
金融経済が実体経済から乖離する2つ目の理由は、途上国も含めた供給能力の過剰と先進国の圧倒的な需要不足である。先進国では少子高齢化が例外なく進んでいる。人口ボーナス期は若い世代の結婚、出産などで将来需要が大きくなる。家が欲しい、家電や家具が欲しい、クルマが欲しいと高欲望の循環になるからだ。
しかし、国民の平均年齢が上がってくると人口ボーナスは反転して、人口オーナス期に入ってくる。人口オーナス期は高齢人口が増える。つまり何でも持っている人が多くなるということだ。当然、将来需要が増える可能性は少ない。
20世紀のマクロ経済理論は人口ボーナス期の有効需要創出にそれなりの効果はあったが、人口オーナス期の心理経済に対してはまったく無力だ。それを証明しているのが先進国で最も早く人口オーナス期に入り込んだ日本だろう。20年も続いたデフレ経済に国民はすっかりなじんで、低欲望化した。不満は持っているのだろうが、デモやストライキで声高に文句を言う国民も少ない。