「ブラックマンデー直前と同じ状況だ」

先進国の需要不足に拍車をかけているのが、21世紀型のサイバー経済が加速したシェアリングやアイドル(空き)エコノミーだ。個人も企業も「所有から利用へ」と進んでいけば需要が減るのは当然。クローゼットや倉庫の中に眠っているモノまで換金してしまうメルカリやエアークローゼットのような企業が先進国では当たり前になっている。エアビーアンドビー(Airbnb)やウーバー(Uber)は世界中で既存の業界を破壊する勢いだし、日本でも軒先、あきっぱ(akippa)、TKP、ファーストキャビンなど「空き」を利用した事業が次々に生まれている。従来は難しかった「空き」の発見と利用を手軽に結びつけたのはスマホ経済。特に若い世代はスマホを駆使して「空き」にアクセスし、決済までスマホのボタン1つで完了する。新聞や本にしてもネットで読んでしまえば購入の必要性も乏しい。

先進国で需要不足が進行する一方で、供給はあり余っている。特に途上国は供給力抜群だ。中国は半導体でもバッテリーでもソーラーパネルでも何でも、日本や欧米から製造装置や工作機械を買ってきて、日本の100倍の規模の工場をつくってしまう。昔は製造能力を身につけるには金だけではなくノウハウが必要だったが、今や製造能力も金で買えるし、機械の中にAIとして埋め込まれている。労働力の安い途上国がそうした機械を買って良質な部品や製品をつくれるようになったから、供給力にはほとんど制限がなくなった。このように需要不足と供給過剰によって需給ギャップが広がるから、モノ余りになって実体経済の動きは鈍くなる。カネ余りで投資先を求めて過熱する金融経済とますます乖離していく。

こうして考えてみると、需要不足は不景気だからではない。

21世紀経済の構造的な問題なのだ。しかし政治家やマクロ・エコノミストはそうした事実を知らない。だから政治家は需要喚起を願って今日も市場に低利の資金をばらまく。だがその金は実需には結びつくことなく、投機に向かう。主な投機先は不動産や株だ。不動産の価値というのは、その物件が将来的に稼ぎ出すであろう利益(賃貸収入)を現在価値に割り戻して決まる。これを収益還元価格というが、ロケーションのいい優良物件でも市場価格プラス30%程度が適正な相場。2倍、3倍になっていれば明らかに上がりすぎだ。

株も企業が未来永劫続いた場合に稼ぎ出すであろう収益を現在価値に割り戻したものが「時価総額」と定義されている。アマゾンやグーグル、中国のアリババなど、米中を席巻しているサイバー企業は将来価値の推測が難しいから、株価が高騰することもある。

しかし、20世紀型の従来企業の将来価値はおしなべて低い。そうした企業の株価まで上がっている状態は、金融経済と実体経済の間に大きな隙間が生じているということ。つまりブラックマンデー直前と同じ状況なのだ。

政治家とマクロ・エコノミストが21世紀の経済圏に移住してこない限り、証券会社や不動産業界が従来のトーンで「お買い得品」を煽り続ければ、いつ大規模調整が入ってもおかしくない。最近の4~5%もの(肝を冷やすような)株価下落は今後何回も繰り返されるだろう。

(構成=小川 剛 写真=AFLO)
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