冷遇されたがゆえに能力伸長に大きな余地

今後は、労働力の「量を増やす」方策に加えて「質を高める」方策を講じることで、日本の労働力不足を解決する糸口が見えてくる。なぜなら、経済規模は、「働き手の数」(量)と「各人の生産性の大きさ」(質)の積で決まるからである。

「ロスジェネ」は先述の通り、すでにそのほとんどが働いており、とくに正社員では3割をも占める主要層となっている。だから量をさらに増やすというより、労働力のボリュームゾーンであるロスジェネ一人ひとりの能力を最大限に発揮できる環境を作り出し、企業等の生産性を高める方策が重要となる。

ところが、残念ながらデータを見る限り、むしろ現状ではその逆の傾向がみられる。この世代は現在、30代中盤から40代中盤となっているが、この年代の賃金や賞与の額は10年前と比べて低水準である。また、三菱総合研究所が保有する生活者意識調査(mif(※))のデータによると満足感や充実感のある仕事ができていると考える人の割合および自分の能力の発揮に満足している人の割合は、他の世代と比べて低い。

ただし、働く意欲は決して低くはない。経済的な自立、金銭的成功の獲得、自分のやりたいことをやる、の3点を重視する傾向が見られる。現在はマネジャー層一歩手前の人が多く、今後は非管理職から管理職に移行する世代であり、10年以内に企業の中で多くの責任と権限を持ちうる可能性が高い。企業の成長を支える中核人材として活躍することが期待される層なのである。

就職氷河期に社会に出たロスジェネの一部は、不幸にも本人の意向に沿わず非正規社員からのスタートを余儀なくされた人も多い。はじめから正社員として就職できた人の中でも、他世代と比べると大企業に就職した割合は小さい。つまり、社会に出てからの教育投資が他の世代と比べると十分に行われていない可能性がうかがえる。しかし、逆に言えば有効な教育を受ける機会が得られれば、能力が増大ないし開花する余地は大きい世代といえる。

実は起業家も数多い。メルカリの山田進太郎氏、Sansanの寺田親弘氏、ビズリーチの南壮一郎氏、はいずれもロスジェネに該当する。能力の高さと仕事への情熱の大きさがうかがえる人たちである。

次回以降、ロスジェネの生活実態や意識を探りながら、ロスジェネが輝き、社会経済も元気になる道を提案していきたい。

※mif(Market Inteligence&Forcast:生活者市場予測システム)の略称。2011年から毎年6月に設問総数約2000問、20歳から69歳を対象として日本の縮図となるような30000人を対象に実施している生活者調査。

奥村 隆一(おくむら・りゅういち)
三菱総合研究所主任研究員。
早稲田大学大学院理工学研究科建設工学専攻、修士課程修了。1994年4月、三菱総合研究所入社。一級建築士。東京都市大学講師(非常勤)。プラチナ社会センターに所属し、少子高齢問題、雇用・労働問題、地方自治政策に関わる研究を行う。著書に『仕事が速い人は図で考える』(KADOKAWA)、『考えをまとめる・伝える図解の技術』(日本経済新聞出版社)、『図解 人口減少経済早わかり』(中経出版)、などがある。
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