フラットな立場の日本人だからできた仕事

交渉を重ねるうちに、少しずつ協力者が増え、プロジェクトはゆっくりと進行していった。私の企画は、被写体に戦争当時のつらい過去を想起させる恐れがある。また戦争を未経験の世代にとってもセンシティブな内容を含んでいる。それにも関わらず、作品の意義を理解し、多くの人が参加してくれた。参加者の人たちには心から感謝し、尊敬している。

南北の参加者の中には、私のプロジェクトを通じて初めて違う地域の人と話したと言う人もいた。手伝ってくれた、南北のスタッフは初めて友達ができたと喜び、新たに南北にまつわるプロジェクトを立ち上げているそうだ。最終的には、私の当初のイメージとはかなり異なる作品になってしまったが、少しは南北の未来を考えてもらえるきっかけになったかもしれない。

私のプロジェクトは、小さな島での小さな行動にすぎなかったかもしれない。それでもフラットな立場の日本人だからできた仕事であったと思う。そして、信頼できる仲間に出会えたキプロスに今では感謝し、また、行ってみたいと思っている。

《マンダラ・イン・キプロス 2017》インクジェットプリント (c)USAMI Masahiro Courtesy Mizuma art Gallery
※2018年2月21日から3月24日まで、ミヅマアートギャラリー(東京都新宿区)にて、宇佐美雅浩氏のキプロスでの作品を展示した<宇佐美雅浩 展 「Manda-la in Cyprus」>が開かれています。詳細はギャラリーのウェブサイトをご覧ください。
宇佐美 雅浩(うさみ・まさひろ)
写真家
1972年千葉県千葉市生まれ。1997年武蔵野美術大学視覚伝達デザイン学科卒業。様々な地域や立場におかれた人々とその人物の世界を表現するものや人々を周囲に配置し、仏教絵画の曼荼羅のごとく1枚の写真に収める「Manda-la」プロジェクトを大学在学中から20年以上続けている。
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