最高裁までもつれた事案も存在する

「相手側に悪意があれば、契約内容の重要な部分を変更されることもありえます。例えば、売買契約書や金銭消費貸借契約書等の契約金額等です。こうした訂正(変更)は、契約の重要な内容を変更するものであり、捨て印でできる範囲を明らかに逸脱しています。そんな事例は多くはありませんが、ゼロではありません。だから、捨て印の扱いには十分注意すべきです」

捨て印で修正をした例。修正はいくつまでという決まりはない。

実際、最高裁までもつれた事案も存在する。昭和53年に判決が出た事案は、金銭消費貸借契約書のトラブルだった。債権者(貸主)が、債務者(借り主)が書類に押した捨て印を利用して勝手に「遅延損害金3割」と書類に追記したことが事の発端だ。

「お金を貸した側が、当初、何の記述もなかった遅延損害金を勝手に書き込んだようです。最高裁は当然のことながらこうした行為は認めず、捨て印を使って貸主がどんな条項も記入できるものではないと断じました」

レアケースではあるが、こうした悪質な相手も存在するということは知っておいたほうがいい。

「契約時に印鑑を押してもらう理由は、“正式に書類を申請するんですね、後戻りできないですよ”という意思確認の意味もあります。だからどんな印でも、決して安易に押してはいけません」

理崎智英
弁護士
福島県出身。一橋大学法学部卒。2010年、弁護士登録。福島市内の法律事務所を経て、現在は東京都港区の高島総合法律事務所にて、さまざまな業界の企業法務を担当。離婚・男女問題にも詳しい。
(写真=iStock.com)
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