ある消費者金融の裁判のゆくえ
かつて存在した消費者金融大手・武富士の贈与にまつわる裁判をご存知だろうか。1997年当時、贈与税の課税は、「贈与時に受贈者(もらう人)の住所又は受贈財産(もらう財産)の所在のいずれかが国内にあること」が要件とされていたため、贈与者(あげる人)が所有する財産を国外へ移転し、さらに受贈者の住所を国外に移転させた後に贈与を実行することで、贈与税の負担を回避することができた。
武富士は、1997年に香港でM&Aを実施し、買収した企業の役員に武富士元会長の長男が就任、現地で業務に当たっていた。1997年から2000年にかけて、長男は1年の3分の2を香港に滞在し、残りの3分の1を日本で過ごしている。
武富士の元会長夫妻は、オランダにある非公開有限責任会社の総出資口数800口すべてを所有しており、1998年には武富士株式1569万8800株を同社に譲渡、同社の総資産の9割をこの株式が占めるに至った。そして、1999年、同社の出資口のうち、720口が長男に贈与された。取得した出資口の経済的価値は、当時で1653億円に達する。
贈与税では、法人に対する出資の国内財産、国外財産の別については、「その出資のされている法人の本店又は主たる事務所の所在」で判断される。つまり、オランダが本社である同社の出資口は「国外財産」となり、さらに、贈与を受けた当時、長男も国内に住所がなかったことから、贈与税の課税対象から外れるとして、長男は贈与税の申告を行わなかった。つまり、実質的に、武富士株式が親から子へ、無税で贈与されることになったのである。
これを受けて税務当局は、2005年に「この贈与は租税回避行為を目的として行われたものである」として、長男に約1330億円を追徴。長男は、これを不服として、追徴課税を取り消す裁判を起こした。
裁判では、「長男の生活拠点が国内なのか、国外なのか」が争点となった。高裁は、長男には日本にも居宅があり、香港に滞在していたものの、インターネットや電話回線で武富士の業務を行っていた実態から、「生活の本拠は日本にあった」として、税務当局の追徴は適法と判断した。しかし2011年、最高裁は、1年の3分の2を香港で過ごしており、その日数から、「やはり生活の本拠は国外にあった」として当該財産が贈与税の対象とならないとの判断を示し、追徴課税の取り消しを命じた。