被害者としてふるまい夫から利得を得ようとする妻

家庭で被害者としてふるまうことによって何らかの利得を得ようとする人もいる。しかし、そういう手法を用いていることに当の本人は気づいておらず、自分こそ被害者だと思い込んでいる場合が多い。

たとえば、30代の男性は、息子が入っている少年野球チームのコーチの手伝いをしており、毎週土曜日、朝8時から17時までグラウンドに行っている。本当はやりたくなかったのだが、他に引き受ける人がいなかったので、どうしてもと頼まれて渋々手伝うことになったのだ。

もっとも、妻は野球に対してあまり理解がない。そもそも息子が野球チームに入ること自体、あまり快く思っていなかったようだ。

ある土曜日、夫がコーチの手伝いを終えて、夕方帰宅したところ、妻が明らかに不機嫌な様子で、一向に食事を作る気配がなかった。直接声をかけるのがためらわれる雰囲気だったので、息子に夕食の準備はどうなっているのか尋ねさせると、「作りたくない」という一言が返ってきた。

▼夫から謝罪を引き出すことに成功した妻は内心「してやったり」

仕方なく、夫が直接「何を怒っているのか」と聞いたところ、妻は突如激高して、「毎週、野球なんて自己満足なことばかりして、お風呂掃除もトイレ掃除もしてくれない!」と怒鳴りだした。夫は、「風呂掃除もトイレ掃除もしていないのはたしかだけど、普通に言ってくれれば素直に従うのに、そんな言い方はないだろう」という思いにとらわれ、憮然とした。

写真=iStock.com/vitranc

おまけに、「自己満足」という表現に引っかかった夫が「うるさいことを言うなあ」と言い返したことが、さらに火に油を注ぐ結果になった。妻は「自己満足は自己満足よ。あなたは自己満足の塊よ。その最大の被害者が私よ。私のことなんか全然考えてくれてない」と怒りだし、その日は結局仲たがいしたまま双方寝てしまった。

翌日、夫が外出先からメールで妻に謝り、週に一度は風呂掃除とトイレ掃除をすると告げ、一応収束したようだ。しかし、夫としては、罵声の迫力に負けた気がして、何となく釈然としなかったという。

この妻は、自分が夕食の準備をしていなかったことは棚に上げて、「野球なんて自己満足なことばかり」していると夫を責めている。夫は、少年野球チームのコーチの手伝いを好きでやっているわけではないのだが、妻は「自己満足」だと夫を責め、その「最大の被害者」が自分だと強調したわけである。

それが功を奏し、妻は夫から謝罪を引き出すことに成功した。そのうえ、週に一度の風呂掃除とトイレ掃除も夫は引き受けてくれたのだから、内心は「してやったり」というところではないか。