「低予算」を強いられながらJ1にとどまる

Jリーグが発表した、J1の「1クラブ当たり平均営業収入」は36億4,000万円(2016年度。対前年比108.9%)で、J2は同13億1,300万円(同97.7%)だ。J1とJ2では注目度が違い、観客動員数や広告収入も格差が出る。それを前提にしてもVF甲府の17億円は低い。逆にいえば「低予算で戦う」を強いられながら5年、J1に踏みとどまったともいえる。

チームが本拠地を構える甲府市の人口は18万9941人(2018年2月1日現在)。山梨県全体の人口も83万人弱にすぎない。大企業も少なく、常にスポンサー獲得に苦労してきた歴史がある。かつてクラブ財政は破綻寸前で、筆頭株主だった山日YBSグループの広告会社で常務を務めていた海野一幸氏が01年に社長に就任(現在は会長)。同氏の画期的な取り組みで財政再建を果たし、経営を軌道に乗せた過去を持つ。

そして、クラブ経営が安定した08年秋に「プロサッカーのチーム運営がわかり、クラブ経営もできるプロフェッショナル」(海野氏)として佐久間氏が招聘された。佐久間氏はさらなる改革に取り組む一方で、11年と15年には、成績不振で解任された前任者の後を受けて自ら監督に就任し、J2降格とJ1残留の結果を残す。16年には年間を通じて監督兼GMとして活動し、J1残留を果たした。ところが吉田達磨監督を迎えた17年に再びJ2に降格し、18年はJ2としてシーズンを戦うことになる。

「プロヴィンチアの象徴にしたい」

実は同氏には、この間に何度も国内外のクラブから好条件のオファーがあったという。だが、VF甲府を「プロヴィンチアの象徴にしたい」という信念からチームに残った。「プロヴィンチア」とは、イタリア語で大都会や大資本のクラブに対抗する「地方クラブ」をさす。サッカー文化が根づく欧州では、地域一体でクラブを支える。人口の少ない甲府を拠点とするチームが、全国有数の強豪になれば、それは地方クラブの成功例となる。

本拠地「山梨中銀スタジアム」での応援風景(写真提供:ヴァンフォーレ甲府)

最優先するのは「1年で復帰」

サッカークラブの経営が、一般企業と異なるものに「人件費率の高さ」がある。選手は活躍すれば価値が上がり「年俸」が大幅増となる。国内クラブの経営では、スター選手の活躍で、リーグ戦の上位となり、天皇杯やACL(アジアチャンピオンズリーグ)で勝ち進めば「分配金」が増え、試合数の増加や注目度による「観客動員数=入場料収入」も増大する。逆に、J2に降格したチームから主力選手が流出してしまうのは、所属チームは営業収入減で減俸となる一方、ほかのチームが好条件を提示してくるからだ。VF甲府はどうだったのか。

「10年連続で主将を務めるDFの山本英臣をはじめ、GKの河田晃兵、MFの新井涼平、FWのリンスなど、主力選手の多くが残留してくれました。選手と面談しても、自分たちで降格させた責任感が強く、悔しさを繰り返さない思いが伝わってきました」(佐久間氏)

昨季の反省を踏まえたチーム編成は、現有メンバーに加えて、新人獲得の「スカウト」、下部組織からの「育成」、外部からの「移籍」も加えて行う。

「たとえば、北海道コンサドーレ札幌から期限付き移籍で金園英学、柏レイソルから湯澤聖人、アルビレックス新潟から小塚和孝を完全移籍で獲得するなど、身の丈にあった範囲で強化を進めています。新人も、今年は大卒選手が面白いと思っています」(同)

J2も、佐久間氏の古巣の大宮アルディージャなど元J1チームや、実力をつけたチームがひしめき、毎年混戦だ。早期に復帰しないと、VF甲府を取り巻く環境も厳しくなる。