J1復帰後に描く「ビジネスモデル」
「これまで以上にお客さんに来ていただくには、魅力的なサッカーで成績を残すことが必要です。さらに甲府市には『総合球技場の建設』が予定されています。10年前から活動する取り組みが、ようやく日の目を見ることになりました」(同)
「総合球技場」とは、山梨県が主導するサッカーやラグビー、アメリカンフットボール専用の新スタジアムだ。2017年7月の県議会で後藤斎・山梨県知事が建設場所を表明し、「総合球技場基本計画」を策定中だ。現在の「山梨中銀スタジアム」に比べて収容人数も拡大し、陸上トラックのない球技専用の臨場感など、試合環境も改善される。
新スタジアムの建設に伴い、佐久間氏は(1)コンセプト、(2)資金調達、(3)運営組織、(4)ビジネススキームからなる「事業運営計画」を立案中だ。チームの魅力度を高めつつ、新たなビジネスモデルで事業収入の増加を図らなければならない。
ダ・ゾーンによる放映権の増収はありがたいが……
また、Jリーグは2017年からの試合放映権を、「DAZN」(ダ・ゾーン。英パフォームグループが提供するスポーツライブ中継サービス)との間で締結した。10年契約で総額2100億円という巨額がメディアでも話題となり、チームへの分配金も成績に応じて大幅に増えた。ただしJ2降格となったVF甲府は、大幅な収入増というわけにはいかない。
「ダ・ゾーンによる放映権の増収はありがたい。ただ今季はJ1時代の80%が担保されるが来季以降は半額に減ります。スポンサーや自治体も今季は応援してくれますが、次があるとは限りません。VF甲府は今年が正念場。1年でのJ1復帰が至上命令です」(同)
佐久間氏に求められる役割とは、減収のなかで従業員(選手・チームスタッフ・フロントスタッフ)をつなぎとめ、結果を残すことだ。時に監督を務めながらGM兼経営者としてシビアな判断を下す同氏の手法に対して、一部からは批判もある。だが、Jリーグの全53チーム(2016年度)のうち、営業黒字は31チームで、22チームは営業赤字に陥っている。その中で15年にわたり黒字経営を続けているのは、川崎フロンターレとヴァンフォーレ甲府だけだ。
後編では、身の丈経営を続けながらチームの結束を高め、自治体と連携しながら「魅力づくり」に取り組む手法を具体的に紹介したい。
経済ジャーナリスト・経営コンサルタント
1962年名古屋市生まれ。日本実業出版社の編集者、花王情報作成部・企画ライターを経て2004年から現職。「現象の裏にある本質を描く」をモットーに、「企業経営」「ビジネス現場とヒト」をテーマにした企画・執筆多数。近著に『20年続く人気カフェづくりの本』(プレジデント社)がある。