サッカーJリーグの入場者数はこの数年右肩上がり。だがチーム経営は簡単ではない。J1、J2、J3の3部の計53チーム(2016年度)のうち22チームが営業赤字。リーグ降格で赤字転落するチームが多いという。そうした状況でヴァンフォーレ甲府(山梨県)はJ1とJ2を行き来しながら、15年にわたり黒字経営を続けている。なにが違うのか――。(前編、全2回)
2017年12月2日のJ1最終戦。ベガルタ仙台との試合。中央はヴァンフォーレ甲府の新井涼平選手。(写真提供:ヴァンフォーレ甲府)

予算の半分を執行する「副社長兼GM」

2月下旬からサッカーJリーグが開幕する。日本代表が6月開幕の「2018 FIFAワールドカップ ロシア大会」(W杯本大会)に6大会連続の出場を果たし、サッカーに注目が集まる年だ。J1は2月23日、J2は同25日にリーグ戦がスタートする。

強豪や注目チームの様子、人気選手については多くのメディアが報道するが、チーム編成の責任者であるGM(ゼネラルマネジャー)に焦点が当たることは少ない。だが、監督とともにGMの手腕によってチームの成績も左右される。今回は山梨県(甲府市と韮崎市が中心)の地方プロクラブ「ヴァンフォーレ甲府」(VF甲府)の事例を紹介したい。

VF甲府は、昨季J1から降格し、今季は6年ぶりにJ2で戦う。同チームで2008年10月から9年半にわたりGMを務めるのが佐久間悟氏だ。かつて大宮アルディージャでは、コーチ、監督、強化・育成部長を務めた。現在はVF甲府の運営会社・ヴァンフォーレ山梨スポーツクラブの取締役副社長も兼務する。クラブ年間予算の約半分の事業執行権を持つ、チーム強化の最高責任者であり、経営陣の1人だ。そうした立場での「GMの役割」や「クラブ経営」を聞いた。

「J1に5年」でも営業収入は伸び悩んだ

「まず、J2降格はサポーターやスポンサー、自治体といったステークホルダー(利害関係者)に大変申し訳ない思いです。昨季は取りこぼす試合も多く、最終戦に勝利したものの、勝ち点1の差で降格してしまいました。チームの最高責任者として詰めが甘かった。現状認識をしつつ、次の手を考えていますが、最優先することは『1年でのJ1復帰』です」

こう話す佐久間氏は、サッカー界の理論家の1人だ。理想を掲げ、現実を見据えながら行動する。20年前、大宮アルディージャのコーチだった1998年3月には、Jリーグ参画を目指したチームの進むべき道を「大宮アルディージャ、プロチーム及び育成部門における強化方針」というパワーポイント資料を作成し、関係者にプレゼンし続けた。

VF甲府でも課題を洗い出し、改革を進めてきた。もちろん道半ばの課題もある。たとえば「現実」には、一般企業の売上高に相当する「営業収入の伸び悩み」を挙げる。

「5年間、J1にいたのに営業収入は伸び悩み、昨年度は約17億円でした。今季はJ2降格もあり、15億円弱になる見通しです。諸経費を見直し、黒字運営を続ける一方で、J1復帰と並行して、事業運営計画も立案しています」(佐久間氏)

その計画は後述するが、先にVF甲府を取り巻くビジネス環境を紹介したい。