3000杯の無料で「情けは人のためならず」

サザコーヒーの活動と向き合って興味深いのは、時に「無謀」と思われる取り組みをしながら、結果的に成功するケースが多いことだ。同社の活動は「情けは人のためならず」(情けをかけることは巡り巡って、自分に恩恵が返ってくる)ということわざを思い出す。

店で400円以上するコーヒーを無料で振る舞う。(写真と本文は関係ありません)

大洗店も現在は厳しいが、一時は津波の傷跡から立ち直り優良店に育った。これ以外に長年取り組むのが、次の地元イベントに対する活動だ。

サザ本店がある、ひたちなか市には毎年1月下旬、全国から大勢のランナーが集まる大会がある。「勝田全国マラソン」だ。参加資格は国籍不問・高校生以上となっており、同マラソンランナーの申込数は、約2万2000人だ(株式会社計測工房の調査結果による)。

サザは毎年、この大会の協賛スポンサーに名を連ねるほか、ランナーに「無料コーヒー」を提供する。すべての参加者が飲むわけではないが、その数は毎年3000杯にもなり、常連ランナーにとっては大会名物のひとつとなっている。

マラソン大会以外にも、地域のPTAの集まりや業界団体の会合、 ライオンズクラブなどの非営利活動、ボランティア活動の際にもコーヒーの無料提供を行う。その結果、鈴木会長の悪友や口の悪い常連客からはこう言われるようになった。

「サザコーヒーではなく、タダコーヒーだ」

「タダコーヒー」とからかわれながら、いい意味で、持ちつ持たれつの関係となっている。

「無料ですから、みなさん喜んで飲まれます。そしてサザコーヒーの名前が記憶に残ると、今度は何かの際に『指名買い』してくださる。長年続けた結果、当社のコーヒーはホテルや飲食店への『卸』よりも、一般への『小売り』が多いブランドになりました」(鈴木氏)

「コーヒーはインテリが飲む」

あまり知られていない茨城県の横顔も、サザコーヒーには有利だという。

茨城大学の図書館内に「サザコーヒー茨城大学ライブラリーカフェ店」を出店。

「茨城県は『筑波研究学園都市』に象徴されるように、大学や研究機関が多い地域です。本店があるひたちなか市(旧勝田市)は戦前に日立製作所が大規模の土地を買い占めた地域で、日立の関連施設も多い。学校や大企業には全国からインテリ層が集まってきます。私は『コーヒーはインテリが飲む』という持論があり、こうした茨城県のインテリ層に支持された結果、事業も拡大できたと考えています」(鈴木氏)

グローバル視点では、コーヒー業界にも「南北問題」はあり、北半球の多くの先進国ではカフェも盛んだ。南半球は豪州以外にカフェが盛んな国・地域は少ないので「コーヒーはインテリが飲む」という説も興味深い。

サザコーヒーにも課題は残り、たとえばコロンビアの直営農園は黒字化できていないが、好調なカフェ事業がそれを補う。当面は「茨城愛」を深掘りすることが先決のようだ。

高井尚之(たかい・なおゆき)
経済ジャーナリスト・経営コンサルタント。1962年名古屋市生まれ。日本実業出版社の編集者、花王情報作成部・企画ライターを経て2004年から現職。「現象の裏にある本質を描く」をモットーに、「企業経営」「ビジネス現場とヒト」をテーマにした企画・執筆多数。近著に『20年続く人気カフェづくりの本』(プレジデント社)がある。