本店は茨城県ひたちなか市にあり、それ以外にも水戸市やつくば市などに店舗を持つサザコーヒーは「茨城のコーヒー屋」を自任する。十数年前から東京都内にも店を出店するが、茨城県内の店とは別の思いで展開しているという。「茨城愛」を深掘りする同社の戦略に迫った――。(第3回、全3回)。

あくまでも自意識は「茨城のコーヒー屋」

サザコーヒーの店舗は現在12店。そのうち9店が茨城県内で、3店が首都圏(東京都内と埼玉県)にある。都内の店はJR品川駅の改札内(エキュート品川)と二子玉川駅前の商業施設(東急二子玉川ライズ)で、埼玉県の店はJR大宮駅内(エキュート大宮)だ。

JR水戸駅ビルにある「サザコーヒー水戸駅店」。

事業が拡大すると、経済や情報が集中する東京に本社を移転したり、東京に主軸を移したりする会社は多い。カフェは比較的「地方発」でも成り立つが、サザコーヒーは絶対に“東京偏重”にしない。同社の役員や社員からも「茨城のコーヒー屋」という言葉がよく出てくる。

1969年開業のサザコーヒーが、東京初進出を果たしたのが2005年のエキュート品川店だ。開業37年目にして利根川と荒川を越えた。実はそれまで、別の商業施設から出店の誘いもあったが、条件やタイミングが合わなかったという。逆に茨城県で力を蓄えることもできた。品川出店時に“陣頭指揮”をとった鈴木太郎氏(副社長)はこう振り返る。

「品川出店のきっかけは、駅ビルの運営会社からのお声がけで、『茨城にこんなコーヒー屋があることを知ってほしい』思いから出店しました。世界的にも注目度が高い東京に店があることは“広告塔”の役割もあり、今でも当社の知名度アップに貢献してくれます」

都内の店は「情報収集」も兼ねる

都内に店があれば消費者の注目度も増すが、もう1つの理由は「情報収集」だ。

エキュート品川店の接客風景。

「東京都内に店があることで、毎日、従業員にリアルな情報が入ってきます。動きの激しい周辺の競合店の情報もあれば、カフェのトレンドも把握できる。インターネットでも情報収集はできますが、目や舌で感じられるリアルな情報にはかないません。特に品川駅は東海道新幹線の停車駅でもあり、年々人出が増えています」(太郎氏)

ちなみに、JR東日本が発表した「2016年度の駅別・1日の乗車人員」によれば、「品川駅は37万1787人」で第5位だ。新宿駅、池袋駅、東京駅、横浜駅に次ぎ、初めて渋谷駅を上回った。数字は「乗車人員」なので、乗降客数を単純に2倍すれば1日で約75万人だ。東海道新幹線(JR東海)や京浜急行品川駅の利用客を含めると100万人ともいわれる。

一方で商品開発は、水戸徳川家を意識した「徳川将軍珈琲」や、岡倉天心ゆかりの土地にヒントを得て、茨城大学と共同開発した「五浦(いづら)コヒー」など、茨城県を意識したものが多い。県内の教育機関と連携した新商品も開発中だという。首都圏の店(コトづくり)と茨城由来の商品開発(モノづくり)の連携が、今のところうまくいっているようだ。