実感の伴った景気回復を実現する条件

以上を踏まえれば、わが国経済は先行きも底堅い景気回復が続き、2019年1月には、戦後最長の景気回復期間を更新する可能性が高い。その後も、2019年10月に実施される消費増税を乗り越えながら、2020年の夏に開催される東京五輪まで景気回復が続く見通しである。もっとも、成長ペースがなかなか加速しないなかで、景気回復を実感しにくいのも事実である。個人消費の回復が遅れていることが示すように、家計への波及が弱いためである。

米国の金融・通商政策や中東・北朝鮮といった地政学要因など海外経済に不透明感が残るなか、家計部門の回復が脆弱なままでは景気回復が腰折れするリスクがある。個人消費主導の力強い景気回復を実現するためには、家計への分配を高めるなど、所得水準の一段の向上が不可欠である。

例えば、家計所得の拡大を阻害している要因として、パート主婦の就労調整がある。パートタイム労働者の所得総額は、労働時間の減少を背景に小幅な伸びにとどまっており、時給の上昇が必ずしも所得の拡大に寄与していない(図表3)。

この背景には、パートに出ている主婦が、いわゆる「103万円の壁」(配偶者控除を受けられる年収、2018年からは150万円)や「130万円の壁」(社会保険料負担が発生する年収、大企業で働くなど一定条件を満たす場合は106万円)を意識して、就業時間を抑えた影響が大きかったとみられる。主婦の労働時間調整は、政府が目指す女性の活躍推進にも逆行した動きであり、第3号被保険者(いわゆる会社員の妻)制度を見直すなど、就業調整を行わないで済むような税・社会保障制度を構築する必要がある。

労働分配率の低下が続くなか、いかに企業から家計への分配を拡大するかも重要な課題である。政府は、政労使会議を通じ賃上げを呼びかけるだけでなく、「子ども・子育て拠出金」のように特定の支出に充当することを目的に企業に拠出を求めることも一案である。人材育成の重要性が高まっていることから、教育関連の支出を目的とした拠出金の創設であれば抵抗感は少なく、家計への分配を高めることができるのではないか。一方、政府としても、国内市場の縮小に歯止めをかけ、企業が人件費の拡大に前向きになれるように、少子化対策などに本格的に取り組むべきである。

実感が伴わない脆弱な景気回復では、原油高やリーマン・ショックにより景気後退に陥った「いざなみ景気」のように、外的ショックをきっかけに景気回復が腰折れするリスクがある。このため、所得水準を一段と向上させ、個人消費主導の力強い景気回復を実現する必要がある。

村瀬拓人(むらせ・たくと)
日本総合研究所調査部副主任研究員
1984年生まれ。2007年03月 一橋大学経済学部卒業、2008年03月 一橋大学大学院経済学研究科修士課程修了。同年04月 日本総合研究所入社、調査部マクロ経済研究センターに所属。2010年04月より米国経済を担当、2012年06月 日本銀行に出向、2013年07月 日本総研に帰任、日本経済を担当。研究・専門分野は国内マクロ経済。
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