二次元アニメの復権が始まる

僕は、この考え方によって二次元アニメが再びよみがえる気がしています。現在の世界的なアニメーションの潮流は、ピクサーなどを中心とする3次元アニメで、一見すると2次元アニメは駆逐されたようにも見えますが、必ずしもそうではないんじゃないかな。

例えば、1950年代のアメリカの雑誌を見ると、高級ブランドは広告に写真よりもイラストを多く使っています。イラストの地位が写真より高い。1950年代を代表するイラストレーターのノーマン・ロックウェルは、モデルにポーズをとらせて写真を撮り、それをもとにイラストを描いたそうです。

岡田斗司夫『大人の教養として知りたい すごすぎる日本のアニメ』(KADOKAWA)

「そんなに写真とそっくりにイラストを描くなら、もう写真でいいんじゃないの?」と思うかもしれませんね。でも、写真だと漠然としてしまうイメージが、イラストだとはっきり表現できる。登場人物同士の人間関係が明確になるし、人物の表情や光の加減も思いどおりに構成できます。

『スター・ウォーズ』のポスターはずっとイラストですが、これも写真をそのまま見せるより、美しさをデフォルメしたほうがよりアートに近いという考え方があるからでしょう。この傾向はアメリカだけでなく、ヨーロッパ全般についても言えることかもしれません。

これまでの日本の二次元アニメは、世界的にはマニア向けだと見なされていました。

しかし『君の名は。』の画づくりは、従来のアニメとはまったく違う。現実のどの要素を捨て、どこを強調して、さらに美しくするのか。「写真よりイラストのほうが上」という領域へ、ついに達したのだと僕は考えています。

何せ『君の名は。』は中国でも大ヒットして、中国での日本映画の興行収入歴代一位になったわけですからね。

中国市場でヒットさせるために、あのハリウッドですら、これまで涙ぐましい努力をしてきました。ストーリーにあまり必要なさそうな中国人のヒロインや科学者を出してきたけれど、それが中国市場での成功につながったとは言えません。

それなのに、『君の名は。』は中国でも大ヒットしてしまった。あんな独特の「ルック」をもった映像をつくれるとなったら、世界中の出資者が放っておくわけがありません。

時に「絵は写真を超える」んですよ。『君の名は。』で、映像表現の新しい潮流をまずは確かめていただきたいですね。

岡田斗司夫(おかだ・としお)
社会評論家
1958年大阪府生まれ。1984年にアニメ制作会社ガイナックスの創業社長を務めたあと、東京大学非常勤講師に就任、作家・評論家活動を始める。立教大学や米マサチューセッツ工科大学講師、大阪芸術大学客員教授などを歴任。レコーディング・ダイエットを提唱した『いつまでもデブと思うなよ』(新潮新書)が50万部を超えるベストセラーに。その他、多岐にわたる著作の累計売り上げは250万部を超える。
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