「情報=金」という感覚
上場企業で株を売買するときも、どの会社の株が上がるか、下がるかという読みがもうけを決める。それがベンチャー投資の場合、成功すると何十倍・何百倍の利益となるが、失敗すればゼロになるので、企業に関する情報の重要度は計り知れない。
ゆえに、いかに良い情報をたくさん集めるかというところが、ベンチャー投資における鍵になる。例えば、中国では民生ロボットを開発するベンチャー企業が続出しており、それと同時に民生ロボットに特化して販売を行う会社も出てきている。表向きはただの販売店だが、深センで起業している友人に聞くと、どういうロボットが売れるのかを自らの店舗情報から読み取り、販売しているロボットの開発企業か、同じようなロボットをつくっている企業へ投資していくために経営しているのではないかとのことだ。
投資に必要な情報の行き着く先が、ビッグデータだ。中国でスマホ決済を手がける企業には、何億人という単位で、どういう行動を取り、何を購入しているかという個人情報が集まっている。人々の動態がわかれば、どういうサービスや企業が大きくなるかが予測できるため、ビックデータを持っている企業は投資に強い。モバイクを買収したテンセント、オッフォを買収したアリババがまさにそういった企業であり、こうして次々とベンチャー企業に投資して業態を拡大していくのだ。このような大手IT企業による投資・買収が、今中国ビジネスで起こっている一番大きな流れだろう。
一方で見直されている「匠(たくみ)の精神」
私が中国に住んでいた10年ほど前までは、多くの中国人が日本製品に対しある種の敬意を抱いていた。しかし今年、私が何度か中国を訪れたときに日本製品を褒めてくれたのは、60歳を超えたタクシー運転手だけだった。それも、昔話としてだ。
Uberのようなシェアリングタクシーが急速に普及する中、そのタクシー運転手は昔と変わらないオンボロ車で、10年前と同程度の料金で乗客を乗せていた。中国における新旧の世界のコントラストが明瞭に現れているようで、果たして10年後の日本はどちらの姿なのかと思いをはせると、不安を感じる。
ただ、日本には日本の強さがあるのも確かだ。中国は「スピード第一」な一方で、それだけではだめだという風潮も出てきている。その代表が「工匠(ゴンジァン)精神」だ。日本語でいう「匠の精神」のことで、日本の伝統的なものづくりも中国で見直されてきているという。そのことを知り私は、日本に残る「匠の精神」や、一つのことに粘り強く取り組む姿勢のなかに、ものづくりに限らずITやAI分野においても、日本が世界のなかで生きていく道があるのかもしれないと希望を抱いている。