多角化経営の欠点が露呈した神戸製鋼所

神戸製鋼の不正問題に戻れば、組織構造上の問題も指摘しておく必要がある。神戸製鋼は日本でも有数の多角化した会社だ。鉄鋼、アルミ・銅、建設機械、機械、エンジニアリング、溶接、電力と7事業を展開している。鉄鋼事業だけを見ると神戸製鋼の世界シェアは極めて小さい。生き残りを考えると中国の鉄鋼会社に身売りもやむなしといえる。それでも神戸製鋼が1社単独でやっていられる理由は多角化にある。世界の大鉄鋼メーカーには対抗できなくても、それぞれの事業で少しずつ利益は出ているし、上客もついている。「よくやっている」というのが経営陣の認識なのだ。

今回の不正問題は取締役会で報告されて議論しながら、神戸製鋼は発表を控えてきた。取締役会で取り上げた重大事項は直ちに開示する義務がある。これは明確なコンプライアンス違反であるにもかかわらず上層部で危機感が共有されていなかった。危機感が乏しい理由の1つは、多角化の弊害としてよく言われることだが、それぞれの事業部門がタコツボ化してしまうからだ。たとえば鉄鋼事業に配属された社員は鉄鋼事業畑で工場長や本部長になる。会社全体のことに触れるのは常務や本社取締役になってからで、その頃には50代後半から60代だから記憶力もおぼつかない。タコツボから出てきて偉くなった人は、会社全体のことより、自分の出身部門を優遇することに関心が向きがちだ。「あいつが社長になったら、ウチの事業は浮かばれない」ということで戦国武将の葛藤のような事業部門間の主導権争いが起きる。東芝では原子力派と半導体派の戦いになり、いい年をした爺さん連中が反目し勢力争いを繰り返した。タコツボから這い上がってきたトップは皆、大体同じことを言う。会社全体を眺める立場になって多角化ぶりが初めてわかるし、挨拶回りに社外に出ても評判がいいから、「ウチの会社も大したものだ」と考える。加えて「横串を強化して総合力を発揮すれば、会社はもっとよくなる」。就任3カ月後には大概そんな演説をする。しかし総合力を発揮するなんてことは至難の業なので、何も成果が出せずに4~6年後に去っていく。

事業部制というのは一見効率的なシステムのようだが、人事交流がない場合には、会社全体のことがわかって、会社のためにやってやろうという人材が出てこない欠点がある。全体がわかっていないから、なかなか危機感も持ちえない。神戸製鋼の不正問題の根幹にはそうした組織の構造的な問題と人事のタコツボ化がある。そこにQAの盲腸化という仕組みの問題が重なったのだろう。多角経営の場合、QAは自立会社である事業部門ごとに置かれるのが普通で、神戸製鋼も事業部門ごとにQAがいたはずだ。QAにしっかり権限が与えられていればいいが、利益優先の事業部門というタコツボの中ではQAは厄介者扱いされる。いつのまにか盲腸化して、事業部長の権限の中に埋没してしまったのだろう。

(構成=小川 剛 写真=AFLO)
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