腰痛で社員の7割が生産性ダウン

平井は健康施策を社員に伝えるための部署が必要だという企画書を、南場智子会長と、人事部・ヘルスケア事業部のトップに提出したがいったんははねられた。だがコンセプトを繰り返し伝え続けるなかで承諾を得る。

こうして16年1月、南場会長をCHO(Chief Health Officer)とするCHO室が発足。いま、担当者は4人と兼務1人だが、当時は平井と兼務1人の小部署だった。

DeNAの健康経営を方向づけたのが、全社員対象の「ライフスタイルアンケート」だ。これを実施することで社員がどんな健康リスクを抱えているかが明らかになった。その結果をもとに「運動」「食事」「睡眠」「メンタル」の4軸を定め、各分野の専門講師を招いて、16年だけで100回近くの健康セミナーを開く。

「テーマが睡眠のときは100人以上集まりましたが、汎用性が低い食事では10人、20人ということもありました」(平井)

毎回、セミナーへの反応を知るために簡単なアンケートを取った。

「アンケートでわかったのが、セミナーに参加するのは健康意識が高い人たち。逆に参加しないのは健康意識の低い人たちで、DeNAで多数を占める20代、30代でした」(同)

健康意識の低い人たちを啓発するため、運動習慣の大切さを説くポスターをトイレなどに貼り、社内で購入できるお弁当のメニューを健康的な内容に変えるなどの手立てを講じた

平井がとりわけ力を入れたのが腰痛対策だ。IT企業のエンジニアやクリエーターは職業柄、椅子に座って作業する時間が長い。しかも土日は外で運動するより屋内でスマホやパソコンを触るのが好きな人が多い。

「アンケートでは7割の人が腰痛や肩こりなどで生産性が低下していると答えていました」(同)

そこで、身体をほぐすウエアを作るメーカー、カイロプラクティックの専門家と組んで「腰痛撲滅プロジェクト」を展開。朝晩は個人で専用の器具を使って、日中は椅子に座りながら身体をほぐす10分くらいの体操を1カ月間実施した。器具の数量の関係で最初の参加者は20人限定。1カ月後にはその85%の社員が「改善した」と答える。効果を実感し、第2弾、第3弾とプロジェクトは継続されている。