ラグジュアリー・ブランドには、同じ製品やサービスであっても、一般的なマーケティングとは異なるブランディングが必要となる(図参照)。そこでの問題は、効率追求型のビジネスで成功をおさめてきた企業が、新たにラグジュアリー・ブランドの構築に挑もうとすると、同一の組織に従来とは異なる動きを求めることになり、混乱や不徹底が生じることである。

「ネスカフェ」と「ネスプレッソ」の違い

ラグジュアリー・ブランドをリードしてきたのは、フランスやイタリアなどのヨーロッパ企業である。ヨーロッパには、歴史的にこの分野に通じた人材が集積している。

「ネスプレッソ」は、ヨーロッパ企業のネスレが手がける、加圧式コーヒーマシンとコーヒーカプセルから成るシステムであり、至福のコーヒー体験を提供する。ネスプレッソに使われるのは、世界のコーヒー豆生産のわずか1~2%のグルメコーヒーだという。

同社はネスプレッソを、「ネスカフェ」などの同社の主要なコーヒー・ブランドとは異なる事業と位置づけ、独立した子会社に事業を委ねてきた。ヨーロッパのラグジュアリー・ブランドは、服飾や家具などの職人仕事にたけた、規模の小さい企業が手がけることが多い。これに対してネスレのような大企業がラグジュアリー領域に乗り出す際には、どうするか。ネスレは、子会社で事業を進めるという選択をしている。その理由はどこにあるか。

ネスプレッソの販売が日本ではじまったのは1986年。当初は飲食店などを対象とした業務用品として販売されていた。インターネットでの販売、百貨店でのネスプレッソ・ブティックの展開など、ネスプレッソの一般消費者向けの事業が本格化していくのは2001年以降である。2013年には表参道にフラッグシップ・ブティックを開店している。

同じ消費者向けのコーヒーでも、ネスカフェのようなマス商品は、「どこでも手に入る」ようにすることで販売を伸ばす。したがって卸や小売りなどの事業者へのアプローチが営業の中心となる。これに対してネスプレッソでは、消費者に直接販売を行い、販売店舗は全国21のブティック(2017年9月時点)に限定される。顧客に「わざわざ出かけるだけの価値がある」と思わせる魅力を、店舗がその空間と接客において備える必要がある。

ネスプレッソのコーヒーカプセルは24種類あり(2017年9月時点)、これに期間限定品が加わる。店舗で顧客に接する販売スタッフは、ネスプレッソとは何か、他のコーヒーとは何が違うかを、その一杯一杯の味わいの違いを踏まえて説明する。当然ながら販売スタッフには、コーヒーに対する知識や情熱において高いものが求められる。