このようにネスカフェとネスプレッソは、同じコーヒーの販売といっても、スタッフの育成においても、企業文化の醸成においても、コールセンターなどのサポート部隊のあり方においても、対応が大きく異なる。このような違いを踏まえればネスレが、この2つの事業のマーケティングを、それぞれ別の組織で展開している理由が見えてくる。

限定感・希少性に根ざしたファインワイン

サントリーには輸入ワインの子会社が2つあることをご存じだろうか。サントリーワインインターナショナル株式会社と株式会社ファインズである。前者は主として幅広い顧客を対象としたカジュアルなワインを手がけ、後者はファインワインなどのラグジュアリーなワインを手がける。

ファインワインの価値は、限定感に根ざしている。フランスなどではワイン生産にあたって、産地・格付けごとに使用するブドウの品種はもとより、収穫する畑、栽培方法などが厳格に定められている。

そもそもブドウの実りは、麦や米などのような穀物と比べると不安定である。そこに先のような畑や栽培方法の制約があるわけだから、同じブランドのワインでも年によって味わいが変わるし、生産量も不安定になる。この制約の裏返しとして、希少性が生じる。

一方でファインワインは瓶のなかでも熟成が進み、保存年数が長い。ファインワインでは、ヴィンテージ(年代)ものの価値が高まりやすいのはそのためである。長く保持していると高値での販売が可能になる場合もあり、いつ売るべきかの判断も必要になったりする。

ファインワインは、人気が出たからといって、商品を大量に安定供給できるわけではない。またブランドの数は膨大であり、さらに仕入れた商品を迅速に売り切っていくだけではなく、時にはあえて在庫させるという判断も必要となる。営業活動にあたって必要となる情報や意志決定のあり方は、カジュアルなマス商品とは複雑性が大きく異なる。ひとつの会社で二兎を追うことが難しくなる理由のひとつは、ここにある。