賃金底上げは世界的な傾向
最低賃金上昇は世界的な傾向です。アメリカでは、シアトル、サンフランシスコ、ニューヨーク、ロサンゼルスといった大都市部で、最低賃金をそれまでの10ドル弱から15ドル(1ドル=110として1650円)にまで、段階的に引き上げる法案が可決されています。ドイツでも、2017年1月より最低時給を8.84ユーロ(約1170円)とする最低賃金法の改定が行われました。
目先の人手不足が解消すれば時給上昇も頭打ちになる、といった単純な構造ではないことが分かります。
では、企業はこの問題に対して、どのような対応策を検討するのでしょうか。特にパート・アルバイトを多数抱える小売業、外食産業、サービス業にとっては、死活問題です。最低賃金や平均時給の上昇だけでなく、社会保険料加入対象者の拡大といった、人件費上昇の要因が加わるからです。
健全な経営を続けるには「売上高アップ」「粗利益利率アップ」といった施策が重要になりますが、そう簡単ではありません。
人事施策に絞ると、人件費をコントロールする方法は、主に次の3つです。
(1)人員(勤務時間)コントロール
(2)賃金コントロール
(3)雇用形態コントロール
まず、人員コントロールです。時間当たりの賃金コストが上がる以上、生産性を高め、少人数で事業運営できる体制をつくらなければなりません。欧米諸国に比べて、特に非製造業の労働生産性が低いと言われる日本企業ですので、思い切った改善を考える必要があります。
曜日や時間ごとの売り上げと人員を比較して、生産性の低い時間帯は、シフト調整によりスタッフ数を大幅に絞ることも検討しなければならないでしょう。
次に賃金コントロールですが、曜日・時間帯別の時給設定や地方への拠点展開といった手段はあるものの、平均相場や最低賃金が急速に上昇していく環境下では、対応策の余地は限られると思われます。
最後に、雇用形態コントロール。正社員、契約社員、シニア社員、パート・アルバイト、派遣社員といった雇用形態ごとの人員構成の最適化です。
小売業や外食産業では、パート・アルバイト比率が80%以上という企業も珍しくありません。そのような業界でも、「契約社員店長」「パート店長」など非正規社員の戦力化策に加え、増加するシニア社員の活用、クラウドソーシングによる業務の外注化など、検討すべき対策は残されているでしょう。