「重要なのは話を聞く能力だ」

2000年8月、6年間の台湾勤務から帰国し、40歳でコンサルティング本部の産業コンサルティング部長になった。野村総研は政策を提言し、業界や個別企業の市場の行方などを分析してきた調査研究の会社。88年の野村コンピュータシステムとの合併後もその事業は続き、台湾へいくまでの9年間は調査研究員の1人として、自動車や建機の業界を担当した。

野村総合研究所 社長 此本臣吾

だが、台北にいた間に、会社は進路を大きく変えていた。バブルの崩壊で企業の活動は停滞し、市場分析などの研究委託は減り、業績が悪化した。そこで、300人近い調査研究員を束ねる幹部が、新市場を切り拓く提案を核とする事業へ軸足を移そうと、コンサルティング本部をつくっていた。

担当は製造業。続いて、携帯電話など通信業界も受け持った。お客とやり取りし、提案をまとめる部下たちは、年に3、4件しかこなせないから、情報や人脈の蓄積は限られる。でも、部長は、そのすべてがお客と言えるから、多くの経営層と会えた。経営戦略に直結する作業を受注するには、トップの信頼が不可欠なためだが、年長の経営者と会って話を聞くことを、若いときから無意識に「自分の役割」と受け止めていた。

様々な分野の人に、多彩な話を聞いていけば、知識も情報も広がり、深掘りされる。だから、ときには相手が身を乗り出してくるような話も、できるようになる。そこから、さらに相手の思いを聞くことができれば、その企業が何に悩み、何を解決したいのかが、だいたいはつかめる。

でも、それを口にはせず、「本当に悩んでいることは、何なのですか」と尋ねてみる。「いや、いい製品をつくっても、なぜか売り上げが伸びず、利益につながらないのだ」といった本音が出れば、「それは、どのへんに問題があると思いますか」と先に進める。やがて、課題が明らかになっても、「こうすればいい」といった自説は、展開しない。あくまで「それは、たぶん、こういうことなのかもしれませんね。その課題を解決するには、こういう仮説が成り立ちませんか」と、相手の思考回路に問いかけていく。

ここが、コンサルビジネスの要諦で、勝負のタイミングだ。相手が「あっ、この人は自分と同じ目線で、問題を解こうとしてくれているな」と思ってくれれば、「この仮説を、まず検証してみませんか」と呼びかける。その検証こそが、まさにコンサルティングだ。