(3)幹部社員に

役員や部長クラスの社員に対しては、緊張を解くためのユーモアはそれほど重要ではない。むしろ、経営課題の解決に関する本質的なことを伝えるときにこそ、ユーモアが威力を発揮する。

「もっとスピード感をもって仕事をしろ」とストレートにいうよりも「築城3年落城1日というが、日本電産の永守重信社長の言葉を借りれば、いまは築城3年落城3時間だ。これくらいのスピード感で仕事に取り組んでくれ」と比喩を交えたほうが、イメージが具体的になる分理解しやすくなる。

また、私は役員会で「カマキリみたいな提案をするな」と一喝したことがある。もちろん、いわれたほうは「え、カマキリ?」と、わけがわからずきょとんとしている。私は、彼の提案を聞いて、細部が詰められておらず不十分だと思った。だが、彼は「大丈夫です、やれます」と威勢だけはいい。

そこで私は、自分は小さなカマキリにすぎないのに、前足を振り上げて大きな車に向かっていく愚かな姿を表現した蟷螂の斧の故事を思い出し、カマキリと言ったのだ。私がそう解説すると、彼もすぐに納得してくれたようだった。

厳しいことや耳が痛いことは、いわれるほうもあまりうれしくないし、プライドから反発を感じることも少なくない。だからこそユーモアで説教臭を緩和するのだ。

(4)目上の人に

ユーモアのセンスを身につけるためには、目上の人のセンスを盗むことだ。私は若いころから歴代の社長と直接仕事をする機会が多く、おかげでずいぶんと盗ませてもらった。

最初に下についた村井勉社長は大変な読書家で、当時あまり本を読んでいなかった私にさりげなく読書を勧めてくれた。折々に読み終えた本をくれるのである。そのときの言い方に、村井さんらしい気遣いがこもっていた。

「わが家は古いからな。本をいっぱい持って帰ると『あんた、本の重みで床が抜ける』と嫁はんが怒るんや。床が抜けたら困るから、この本、君が持っていけ」

こんなユーモラスな言い方をし、決して「これ読んでおけ」と命じることはなかった。

次の社長、樋口廣太郎さんは、禅の公案のようなユーモアが好きな人だった。京都の街を車で走っていたときのことだ。樋口さんが急に「あそこに見える比叡山の前に電柱が何本も立っているな。おまえ、あれを消せるか」と私に質問する。

「消せるわけがないですよ」と答えると、樋口さんは「比叡山に意識を集中すればいい。俺は画家の東山魁夷先生から聞いて、自分でも練習したらできるようになった。いまは電柱なんて一瞬で消せるぞ。まあ、おまえには無理かもしれんがな」という。ユーモラスな語り口で、本質の見抜き方を伝授してくれたのだ。

瀬戸雄三さんで印象的なのは、お辞儀の仕方。エレベーターの前でお客さんをお見送りしたとき、私のお辞儀の仕方があまり丁寧に見えなかったのか、「おまえはお辞儀の仕方も知らんのか。頭はお客さんの靴のつま先が少しだけ見えるくらいに下げるんや」といって自ら手本を見せてくれた。いくら心を込めて頭を下げても、そう見えなければ心がこもっていないのと一緒だということを、身をもって教えてくれた。

あえて付け加えると、自分が目上の人と接するときは、ユーモアを交えようなどとは考えなくていい。私も歴代トップに対してユーモアじみた口を利いたためしはない。それよりも、彼らの滋味にあふれる話をよく聞き、咀嚼したから私にも多少の蓄積ができたのだ。

ユーモアのセンスを磨くには、本を読むことも有用だ。読むほどに知識や気の利いた言い回しが自分の中に蓄積される。そうやって引き出しが増えれば増えるほど、状況に応じた言葉が出やすくなる。人に学び、本に学ぶ。当たり前かもしれないが、それが大事なことである。

(構成=山口雅之 撮影=永井 浩)
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