先に述べたとおり、ユーモアには「ブラックジョークや下品はご法度」という条件がある。特に気をつけなければならないのは、結婚式のようなおめでたい席の挨拶だ。私がある人の式で披露し、拍手喝采をいただいたのは次のようなスピーチだ。

まず主役である新郎新婦をほめる。次に「この親御さんにしてこの子ありです」と2人の両親を持ち上げる。ここまでは当たり前だろう。その先がポイントだ。私はこう述べた。

「思えば親の手を離れたあとは社会が2人を育ててくれました。ということは、今日ここに来ている方たちみなさんが新郎新婦の育ての親です。みなさん、これからもいままで同様、まだまだ未熟な2人を支えていってあげてください」

人を育てるのは、関わりを持つ周囲の方々すべてである。理屈ではわかっていても、なかなか実感しにくいことだろう。だが、披露宴には彼らと縁のある人たちが勢ぞろいしている。たしかに、見渡せばみんなが「育ての親」なのだ。

私のスピーチにその場に来ていた親戚・友人・同僚などのみなさんはそれぞれが深く納得し、笑顔になって拍手を贈ってくれた。これなら下品ではなく、誰も傷つかない。

(2)若手社員に

若手と話すとき、気をつけていることがある。相手はだいたい緊張しているから、リラックスさせるためにユーモアを交えるのだ。つい先日も、私のところに技術の説明に来たIT部門の若手が、引きつった顔のままいきなり話を始めたので、私はそれをさえぎって、困った調子でこういった。

「なんや、専門用語だらけやないか。これだと家に帰ってウィキペディアで延々調べなあかん。もう少しわかりやすい言葉で説明してくれんと、家でゆっくり休めんなあ」

すると、そのひと言でようやく落ち着きを取り戻したようで、その先の説明は俄然わかりやすくなった。

叱るときもユーモアが必要だ。たとえば、部下の提案の甘さを指摘したあとで、「ま、俺も社長から『こんな企画ダメだ!』と2回続けて突き返されたことがある。でもメゲずにもう1回持っていったら、さすがに社長も根負けして『わかった、わかった、やってみろ』。最後は認めてくれた。だから一度であきらめるなよ」と付け加える。

部下を叱るのはあくまで成長を期待してのことだから、最後はユーモアで癒やしを与え、やる気を引き出して話を終えるのである。

頑張っている部下を励ますときはこんな具合だ。

「いまは大変だと思うが、1日8時間、一生懸命働けば必ず偉くなるから頑張れよ。偉くなったら、1日12時間働くことになるけどな。俺なんか365日、24時間休みなしだ」

ただ「頑張れよ」でもいいのだが、ユーモアを交えた言い回しのほうが、心に染みるのではないだろうか。

部下との会話にユーモアを挟み込む際は、相手と同じところまで目線を下げることを忘れてはならない。自分は上司だから、役員だからといって、相手を見下すような気持ちがあると、せっかくのユーモアも「どうだ、俺の話は面白いだろう」という自画自賛の押しつけになってしまう。これでは、知識や教養をひけらかすだけの嫌みな上司でしかなく、もちろん尊敬もされない。