借り物ではない自分の言葉で話そう

コミュニケーションについて私が大切に感じているのが、顔の見える相手に意見を求めることです。今はSNSなどを通じて、不特定多数の人とネット上で簡単につながることができます。でも、顔が見えない不特定多数の人々は、存在しない他者とそんなに変わらないというのが私の考えです。

学生の頃、私は自分が書いた小説をクラスメートに読んでもらっていました。面と向かってのやり取りなので、相手も責任を持って感想を伝えてくれる。あえて批判する場合には、関係性が悪くなる可能性がわかったうえで率直な意見を言うわけだから、言葉にも重みが出ますし、そういう覚悟のある言葉でなければ受け取る意味がありません。建前を言って取り繕うことばかりが、マナーではないんです。

2012年に直木賞を受賞したとき感じたのは、自分の言葉で話せる人は魅力的だということでした。いろいろな人からお祝いの言葉をいただいたのですが、なかにはネットの記事に書かれているあらすじを暗記しただけのような感想も実はありました。ただ、そういう言葉はすぐわかるし、受け取ってもあまり記憶に残らない。一方、今でも私の記憶に残っているのは、会社員時代に尊敬していた上司から言われた「賞は後からついてくるものであって、最初から狙うものではない」という言葉でした。小説はほとんど読まない人だったのですが、誰かの借り物ではない心からの言葉だと思えて、素晴らしいなと感動しました。

たとえ自分が詳しい分野のことでなかったとしても、自分の言葉で話せる人は一目置かれます。ネットから拾い集めたものではなく、自分の言葉で話す訓練をしてみてください。仮に見当違いなことを言ってしまったとしても、20代のうちなら許されますから。

辻村深月さんに学ぶ「20代の心がけ」3カ条

1. 職場の先輩や上司を改めて観察してみる
各人の能力を尊敬できると視野が広がっていく。

2. 実現したいこと、目標は有言実行で
自分を追いこみさらに周囲が応援してくれる効果も。

3. 顔が見える相手の評価を大切に受け取る
批判も、覚悟のある意見。ネットの声はあまり気にしない。

(構成=吉田彩乃 撮影=金子山)
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