著名ロシア人をマネロンで逮捕

この7月にビットコイン取引所を運営しているロシア人が、米国の検察当局に逮捕されるという事件が起きました。容疑はビットコインを使ってマネロンを行っていたというものです。容疑者のアレクサンダー・ビニック氏はロシアでは有名人で、キプロスで会社を設立し、ブルガリアにサーバーを置いて、ネット上でビットコインを取引していました。ビニック氏は40億ドル(約4400億円)以上にのぼるマネロンに関与したとして、米国の検察当局がギリシャで彼を逮捕しました。

今月着目する第二のリスクはマネロンに対する規制の強化です。米国のトランプ大統領の誕生によって、記入規制が緩和されるとの見通しもありましたが、ことマネロンに関してはその気配は全くありません。アジアでは資金洗浄対策非協力国家と警告を受けていたフィリピンが、今年2月から資金洗浄防止法の強化に乗り出しました。ちなみにマネーロンダリング(マネロン)とは、麻薬売買など犯罪行為で得たカネをさまざまな手法を駆使してロンダリング(洗浄・洗濯)し、表社会で使えるカネにする行為です。

ロシア人が使ったビットコインはいわゆる仮想通貨で、日本、欧州の数カ国、フィリピンなどの東南アジア諸国でも合法化されています。日本では14年にビットコインの取引所であったマウントゴックス社が破たんしたため、ビットコインにはネガティブな印象を抱いている人も多い。その一方、フィリピンではビットコインが、非常によく使われています。なぜ使われているかというと、フィリピンは海外に働きに出る出稼ぎ労働者が多いからです。フィリピンの人口は約1億人で、そのうち1000万人が海外で出稼ぎ労働者として働いているとみられます。そうした出稼ぎ労働者が本国のフィリピンに仕送りする際に、手数料の低いビットコインを使う人が多く、このためビットコインの取引が活発化しているのです。

ただし、昨年、バングラディシュの中央銀行の口座がハッキングに遭い、一部の資金が海外に流れ、その資金がフィリピンにある会社に入金されたという事件もありました。このようにフィリピンでは、ビットコインを使ったマネロンが問題になり、国際的にも批判を浴びていました。そのためフィリピン政府は資金洗浄防止法を強化して、規制を強めることにしたのです。

知らない間にマネロンに巻き込まれているかも

規制強化によって日本企業が、すぐに影響を受けるということはありませんが、銀行などの金融機関は、直接にはビットコインを扱っていなくても、マネロンに巻き込まれるリスクが高まっています。仮想通貨はとても新しい分野で、フィリピンの中央銀行も一部決済手段として認めているので、現地の支店が知らない間に関与していたということもあり得ます。

仮想通貨は最終的には法定通貨と交換されて、銀行の口座に入金されることも多い。入出金の動きが不自然な口座は早く把握しておかないと、マネロンに協力しているのではないかと捜査の対象にもなりかねません。場合によっては、各国の規制当局から行政処分などのペナルティーを課されるリスクもあるので、要注意です。

マネロンに対する規制強化の影響を軽減するために、企業が確認すべきポイントを表2にまとめましたので、ご参照ください。

茂木 寿(もてぎ・ひとし)
有限責任監査法人トーマツ ディレクター。有限責任監査法人トーマツにてリスクマネジメント、クライシスマネジメントに関わるコンサルティングに従事。専門分野は、カントリーリスク、海外事業展開支援、海外子会社のガバナンス・リスク・コンプライアンス(GRC)体制構築等。これまでコンサルティングで携わった企業数は600社を越える。これまでに執筆した論文・著書等は200編以上。政府機関・公的機関の各種委員会(経済産業省・国土交通省・JETRO等)の委員を数多く務めている。
(写真=AFLO)
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