米国でセクハラ告発が相次いでいます。かつて在米の日系企業もセクハラで巨額の和解金を支払った苦い経験を持っています。企業のリスク管理に詳しいトーマツの茂木寿氏は「訴訟で問題になるのは、セクハラそのものではなく、セクハラを放置した会社側の管理責任。セクハラを許さないという明確な意思を、普段から示しておくことが重要だ」と指摘します――。

発端は著名な映画プロデューサー

米タイム誌は毎年12月、その年に最も影響を与えた人をパーソン・オブ・ジ・イヤー(Person of the Year=今年の人)として発表しています。2017年はメディアで性的嫌がらせ(セクシャルハラスメント:以下「セクハラ」)を受けた経験を告発した女性5人が選ばれ、表紙を飾りました。ちなみに、2016年は米大統領選挙を勝ち抜いたトランプ氏、2015年はドイツのメルケル首相が選ばれており、一般の女性が選ばれることは稀です。一連の問題が米国内で非常に大きな関心を集めたことが分かります。

「事の発端が映画関係の有名人だっただけに、今回の反セクハラの動きは「Me too運動」として全米に広がっている」写真=iStock.com/nito100

これは米国での出来事ですが、日本企業にも多大な影響を与えるものです。今回は事実関係を振り返りつつ、日本企業の取るべき対策についてお伝えします。

事の発端は2017年10月5日、米ニューヨーク・タイムズ紙が、著名な映画プロデューサーであるハーヴェイ・ワインスタイン氏から長年にわたり、複数の女優、映画関係者に対し、セクハラを行っていたと報じたことに始まります。その後も、同様の告発が相次ぎ、その代償は大きなものになりました。ワインスタイン氏は自ら設立した会社から解雇され、アカデミー賞を主催する映画芸術科学アカデミー(AMPAS)からも追放されました。なお女優たちの証言によると、ワインスタイン氏は、全裸もしくは全裸に近い姿となって、マッサージをすることや一緒に入浴することを求めたということです。

これ以降、ほかの映画関係者によるセクハラ告発も相次いだことから、この動きは「ワインスタイン効果(Weinstein effect)」と呼ばれました。また、「私もそうだった」という勇気ある告発を引きだそうと「Me Too運動(Me Too hashtag)」とも呼ばれています。

ワインスタイン氏以降で特に大きな動きとなったのは、アラバマ州上院議員補欠選挙の共和党立候補者のセクハラ疑惑です。これは米ワシントン・ポスト紙が2017年11月9日に報じたもので、約30年前に候補者が30代だったときに、当時10代の女性4人にセクハラをしたというものでした。

南部アラバマ州は元来、民主党が強い地域でしたが、1980年代以降、徐々に共和党が優勢となり、1990年代以降は同州の上院議員2名は共和党が独占しています(2016年の大統領選挙においても共和党のトランプ候補が勝利)。そのため、当初から共和党候補の優勢が伝えられ、勝利は間違いないと思われていましたが、2017年12月12日に実施された同州の上院議員補欠選挙では、セクハラ疑惑を報じられた共和党候補者が落選する事態となりました。

このことはトランプ政権に大きな打撃となりました。民主党候補が勝利したことにより、上院における共和党、民主党の議員数が拮抗することになるからです。