日本企業としてなすべき対策とは

それでは、海外に進出している日本企業は、これらの問題に対しどのように対応すべきでしょうか。国内外で未然防止及び発生後の危機対応として、留意すべきことを下記にまとめました。

▼日本企業がとるべき対策
【未然防止】

・日本本社及び現地法人トップによる各種宣言(セクハラ、パワハラを含むコンプライアンス問題を未然に防ぐとの意思表明・宣言)を行う
・各種ホットライン、内部通報制度の拡充
・上記ホットライン、内部通報制度の運用に関するマニュアル、ガイドラインの整備
・未然防止ための教育・研修制度の拡充
・このような問題に関する社内アンケートの実施
・問題を起こした社員に関する懲罰規定の明確化
・日本人駐在員の赴任前研修等での啓発
・各種当該事例の国内外拠点での共有
・当該問題は欧米等でリスクが高いとの認識があるが、今後は全世界的にリスクが広がるとの認識を持つこと 等
【発生した場合の危機対応】
・当該問題を軽視しない姿勢の堅持(※)
・本社及び当該拠点での危機管理体制の確立(対策本部の設置等)
・可及的速やかな事実関係の把握(事実であった場合には、第三者も加えた調査委員会の設置等も必要)
・可及的速やかな違反者の社内処分の実施(場合によっては刑事事件となることにも留意)
・広報体制の整備(メディア等との窓口の一本化、対応の速やかな開示等の積極的な広報対応)
・再発防止策の策定と実施 等

※パフォーマンスの低さから解雇された現地社員が現地法人を訴えた事案では、現地法人が解雇された社員のパフォーマンスが低かったためとの事由を裁判官に認識されることに成功したものの、被告側が裁判途中から、日本人社員のみが特権的な立場となっているという当該企業の差別問題を提起し、結果的に被告が勝利したという事例がある。

上記のような対応の要となるのは、その企業が外部に対してセクハラやパワハラを許さないという明確な意思を持っていることを示すことです。そのためには社内の意識改革が最も重要と言えます。つまり、快適な職場環境の醸成が、その会社の生産性、効率性、成長性を担保するという認識を社内に浸透させることです。その上に制度を整備し、研修や教育を地道にやっていく。対策はこれに尽きます。

繰り返しになりますが、セクハラ訴訟はセクハラをやった本人以上に、それを放置していた会社の管理責任が問われ、巨額の罰金が科されます。欧米諸国だけでなく、新興国であっても、罰金は巨額になる恐れがあります。もしセクハラを見かけたら、絶対に放置してはいけません。

茂木 寿(もてぎ・ひとし)
有限責任監査法人トーマツ ディレクター。有限責任監査法人トーマツにてリスクマネジメント、クライシスマネジメントに関わるコンサルティングに従事。専門分野は、カントリーリスク、海外事業展開支援、海外子会社のガバナンス・リスク・コンプライアンス(GRC)体制構築等。これまでコンサルティングで携わった企業数は600社を越える。これまでに執筆した論文・著書等は200編以上。政府機関・公的機関の各種委員会(経済産業省・国土交通省・JETRO等)の委員を数多く務めている。
(写真=iStock.com)
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