もし日本で洗剤のキャンペーンをするとしたら?
この問題、日本の「おおやけ」的にはどうだろう。私の感覚からすると、日本のお父さんはインドよりはマシかもしれない。少なくとも、インドにはない「イクメン」という言葉は数年前から浸透してきた。
しかし一方で日本には、働きたくても働けない女性が300万人もいると言われる。女性の管理職はいまだ1割程度しかおらず、これは世界で96位と相当低水準だ(ILO"Women in Business and Management: Gaining momentum")。2016年には「女性活躍推進法」が施行され、女性活躍の将来像が見えてきた一方で、日本男性の意識改革は依然として大きな課題でもある。
もし、アリエールが日本でも同様のPRを展開するならば、どんな「おおやけキャンペーン」が効果的だろうか? インドよりは「男性の家庭進出」が進んできた日本では、少し異なるアプローチが必要になる。インド人のお父さんたちがどことなく「仕方なしに」(そしてユーモラスに)家事参画を表明したこのキャンペーンとは違って、日本の場合は、家事進出をすることが「イケてる男性」「最先端の男性」というメッセージが必要だろうし、そのほうが人は動くだろう。このように、似たような社会課題でも、その国の社会ステージによって見立ては変化する。
「社会性」は身近なほうが、人の心に届きやすい
社会が抱える問題について、あるソリューションを提示する。それは、人を動かす大きな原動力になりうる。だが、あまりにも大きく、自身(企業や商品、ブランド)から遠すぎる社会問題の解決を掲げても効果は薄い。例えば、前述のアリエールが「CO2削減」を訴えても、そのメッセージは届きづらい。
また、ソーシャルメディア時代特有の「フェイクおおやけ」にも注意したい。ネット上にはさまざまなオピニオンがひしめくが、果たしてそれらは本当に社会的な問題なのか。ネット世論だけが熱く盛り上がっているのではないか。PR担当者は、ネットリサーチやソーシャルリスリングにとどまらず、新聞記者や雑誌・ネットニュース編集者などへのヒアリング(メディアヒアリング)を実施し、検証することが不可欠である。
次回は戦略PRの6つの視点のうち、「ばったり」の例を紹介する。
ブルーカレント・ジャパン株式会社 代表取締役社長/CEO
1970年生まれ。戦略PRプランナー。「世界でもっとも影響力のあるPRプロフェッショナル300人」にPRWeek誌によって選出された日本を代表するPR専門家。99年、世界最大規模のPR会社フライシュマン・ヒラードの日本法人に入社。2006年、ブルーカレント・ジャパンを設立し代表に就任。2009年に『戦略PR』(アスキー新書)を上梓し、広告業界にPRブームを巻き起こす。『広告やメディアで人を動かそうとするのは、もうあきらめなさい。』(田端信太郎氏との共著、ディスカヴァー刊)などの著作、国内外での講演実績多数。2015年よりJリーグマーケティング委員。2015年の『PRWeek Awards』にて「PR Professional of the Year」を受賞。「カンヌライオンズ2017」PR部門審査員。