人を動かすのが難しい時代になったと言われて久しい。もとより、世の中は複雑なもので、さまざまな力学や利害関係、「大人の事情」が影響し合う。爆発的に増えた情報量と消費行動の多様化が、複雑さに拍車をかける。良かれと思って発信されたであろうメッセージがすさまじいバッシングに遭うかと思えば、想像もつかないものが大流行する。今一つ理解できないと怪訝に思ったことが、誰しも一度や二度はあるのではないだろうか。
企業がその目的を遂げるために、人や社会を動かそうとする試み――マーケティングや企業コミュニケーションは確かに、難しくなっている。だが、悪いことばかりではない。ソーシャルメディアとスマホの普及により、われわれの情報消費リテラシーは飛躍的に向上した。これまで以上に世の中のしくみや社会の関心を戦略的に活用できる土壌が生まれた。では、どのように話題をつくり、世の中を動かすのか。そこにはある一定の法則がある。
戦略PR、6つの視点
私は過去20年以上、世界3位の米国系PR会社に身を置いてきた。2006年、戦略PRの専門会社をグループ内に新設し、以来10年以上代表をつとめている。仕事柄、必要に迫られ、国内外のPR成功事例を分析し続けてきた。その結果、情報発信がうまくいくケースは次の6つの要素に帰着することがわかったのだ。
- (1)おおやけ……「社会性」の担保
- (2)ばったり……「偶然性」の演出
- (3)おすみつき……「信頼性」の確保
- (4)そもそも……「普遍性」の視座
- (5)しみじみ……「当事者性」の情勢
- (6)かけてとく……「機知とリアルタイム性」の発揮
まず、「おおやけ」とは、世の中のニーズや社会課題と自社や商品を結びつける視点だ。つまり「社会性」であり、「公共性」である。「ばったり」は、大量の情報があふれかえるなかで、偶然出会う(出会ったと思える)情報の価値を指す。「おすみつき」はインフルエンサーなどの第三者による発信によってもたらされる信頼性。「そもそも」は普遍的なテーマが持つパワーの効用である。「しみじみ」はその響きの通り、情緒的要素であり、結果的にもたらされる当事者性だ。最後に「かけてとく」はウィットや頓智(とんち)にみられる、機知とリアルタイム性に富んだコミュニケーションである。
今回はこれら6つの要素の中から「おおやけ」について、グローバル事例を紹介しながら、掘り下げていきたい。