「そもそも」で普遍的な問題に気付く
PRというと、「斬新なことを発信しなくてはいけない」と思いがちだ。確かに、それも大切なことではあるが、何でもかんでも新しければいいというものではない。世の中にじっと目を凝らしてみると、表面的なトレンドや風潮の水面下に、みんなが忘れている原点や普遍的な何かが潜んでいる場合がある。そこを突いて、PRチャンスに変える。大事なのは、「みんながそう思っていること」は、案外に社会では表面化していないことがあるということ。あるいは、「そういう時期」があるということだ。
もっと言えば、「潜んだ普遍性」という視座だ。社会で明らかになり過ぎていることでもなく、かといって誰も思いつかないような斬新なことでもない。その間をつく。表面化しそうでしていない、潜在的に「みんながそう思っていること」を狙う。その結果、「よくぞ言ってくれた!」を引き出し、価値変換を起こす。
そのときに役立つのが戦略PRの4つ目の要素「そもそも」だ。「そもそもこの問題の原因は」「そもそもの目的に立ち戻ろう」など、安易に発言されるとうっとうしいときもあるが、当を得た「そもそも」には価値がある。紛糾し枝葉の議論になり果てた会議などで、それまで黙っていた女性上司の「そもそもの目的に戻りましょう」という一言で皆が「ハッ」となり、その場の空気が変わる……なんていうこともある。問いかけることであらためて本質的な問題や課題に耳目が集まる。
さて、最近の社会風潮のひとつに「人種差別主義」がある。日本でも「嫌韓」「嫌中」の声が吹き荒れ、トランプ政権しかりブレグジットしかり、世界は今、差別主義に傾いているように思える。そんな風潮に「そもそも」を突きつけた戦略PRの成功例がある。今回紹介するのは、デンマークのオンラインチケット販売会社「Momondo」による「The DNA journey」というキャンペーンだ。同社は、DNA技術を使ったある実験プロジェクトを行い、その様子を動画で配信し、話題になった。その内容は次のようなものだ。