「ばったり出合った情報」には価値がある
何かを探しているとき、探していたものとは別の、価値あるものを見つける。そんな経験は私たちを魅了してやまない。広告・PRコンテンツでも同じだ。自然なかたちで出合った(と思える)ものには、わたしたちは価値を見いだす。その逆が「いかにも狙われている感」だろう。例えば、旅行サイトを閲覧したり、「スキー」「北海道」というキーワードで検索したりすると、やたらと航空券サイトの広告が出てくるようになる。いまや行動ターゲティングのテクノロジーは飛躍的に進化を遂げており、閲覧履歴や検索ワードから行動を先回りされ、似たような広告を飽きるほど見せられるのが日常茶飯事となっている。
だからこそ、「この情報にばったり出合ったのには意味がある」と思わせる、偶然性の演出が重要になる。これが戦略PRを成功させる2つめの要素「ばったり」である。
「見れば見るほど好きになる」という言葉がある。単純接触による刺激が増えれば増えるほど対象への親近感が高まるというもので、これを1968年に提唱したのが、著名な心理学者ロバート・ザイアンスだ。論文「単純接触の態度上の効果」は大きな反響を呼び、当然ながら当時の広告業界にも影響を与えた。その後提唱された「スリーヒッツ理論」や「セブンヒッツ理論」(いずれも、広告接触回数が購買行動に与える影響を説いたもの)も、やや乱暴ながら、ザイアンスが源流だろう。
SNS時代に「見れば見るほど好きになる」は難しい
だが世の中、そんなに単純なものではない。単純接触の回数だけで好意をゲットできるなら苦労はない。お気に入りの女子のSNS投稿に「いいね!」をつけまくり、「そのレストランのオーナー、私の知り合いですw」などと、いちいちコメントを付けたらどうなるか? 結果は明白だ。迷惑なストーカー扱いされるのが関の山、単純接触を増やせば増やすほど嫌われる。つまり、逆効果となる。
これは、J.W.ブレームが唱えた「心理的リアクタンス理論」に当てはまる。人は基本的に自由であることを求め、自分の態度や行動は拘束されたくない。それが脅かされると、心理的なリアクタンス(抵抗)が生まれる。「意図が見え透いた説得に頻繁に接触すること」はネガティブでしかなく、その対極にあるのがここでいう、「ばったり」なのだ。
では、「ばったり」を効果的に生かした事例にはどのようなものがあるのか。今回は、オーストリア・ビクトリア州の交通事故撲滅キャンペーン「MEET GRAHAM」(ミート・グラハム)を紹介したい。