それにしても、涙って枯れないものなんだと、この時実感しました。

僕たちって大人になって、いつの間にか泣けなくなっていませんか。「人前で泣くのはみっともない」とか、「大きくなったら泣くことはよくないこと」だと教えられてきましたよね。でも、泣くことってすごく大事なことだと思います。泣くと自分の中に抑え込んでいた感情を解き放つことができるんですから。

がんの患者の方が家族にいる人はぜひ、ご夫婦で、ご家族で一緒に泣いて、不安な気持ち、何もしてあげられないもどかしさなどの感情を解き放ってみてください。それも大切な治療のプロセスのひとつだと思います。

また、がんの場合はよく「闘病」という言葉を使いますよね。僕は「闘病」という言葉は使わずに「治療」と言っています。「闘病」には闘うイメージがあるけれど、「治療」というと、治るものを治していくというイメージがあります。これだけで大きな違いじゃないですか。

目標は壁のひとつ向こうに設定すること

手術は10時間近くに及びましたが、先生方のおかげで無事に終わり、リハビリに入りました。

リハビリ中に僕が考えていたことは、「壁のもう一歩先をイメージすること」でした。このイメージトレーニングの方法は、高校の野球部の監督、大学の教職課程で受けた児童心理学の教授など、僕の人生の要所で教えてもらったことです。

監督と教授からは「目標は壁のひとつ向こうに設定すること」「楽しい目標にすること」を教わりました。例えば、高校の野球部の監督は「甲子園を目指すな」っていうんです。「そうじゃなくて、甲子園の開会式の前日の宿泊所の夜を想像しろ」と。甲子園へ行くことは当然のことで、目標はその先に定めるんだという意味です。

児童心理学の教授も「子供にはできるだけ楽しい目標を持たせなさい。大学受験ならば、目標は志望校合格ではなく、志望校に入学した後のサークル活動を目標にさせなさい」と言う人でした。