“会社”から“社会”へ存在理由を置き換え

私がかつて環境大臣としてクールビズを提唱したときに、ある男性からいわれた言葉が、今も心に残っています。「ネクタイは取ってもいいけれど、名刺は取らないでね。男の存在証明がなくなるから」と。なるほど……。日本社会を考えるとき、ここはポイントだと確信しました。

日本人の国民性の特徴は「勤勉」「真面目」です。コツコツと勉強し勤め上げ、その人生の証しが一枚の名刺に表れています。しかし、その真面目さがゆきすぎると、超満員電車通勤、超過残業、過労死の問題にまで発展し、さらに退職後に陥る一種の虚無感につながるのではないでしょうか。退職直後に認知症にかかる男性は多いと聞きます。

また、同じ年を重ねるのでも、女性は地域活動への参加や、PTAのつながりなどがあるため、より広い人間関係が築けていることが多いのですが、男性は真面目な組織人であればあるほど、退職後の疎外感が大きいとも聞きます。

人間の「レゾンデートル(存在理由)」を、“会社”から“社会”に移す作業が必要です。それもできるだけ早く。趣味や学びの場を持ち、仕事以外の生きがいを見つけ、好きなこと、打ち込めること、気晴らしになること、楽しめることを確保しましょう。

定年退職を迎えたその日に、「これからは俺の人生だ」と喜び、その翌日から何をするか。65歳で定年退職したとして、すぐに特別養護老人ホーム(特養)に行くわけではありません。まだ10年も20年も、日野原先生のようにそこから半世紀近く人生を楽しめるかもしれないのです。

そのような視点から考えると、「高齢化問題=介護・医療問題」以外にも、もっと根源的に「人生とは何か」という視野が広がるのではないでしょうか。