[3] 交換の論理を採り入れる

情報は通貨である。極秘データを教えてくれと相手が頼むのであれば、その相手はお返しに何か重要な情報を提供する用意がなくてはいけない。ここでとるべき戦略は、交渉の運び方を情報提供の論理から交換の論理──情報を受け取る側はそれぞれ現物でお返しをする、という共通の理解──に切り替えることだ。

交換の論理は情報を正直に伝えることのリスクを減らしてくれる。お返しに貴重な情報がもらえることが期待できるからだ。たとえば建設会社は、コストに一定の率の金額を加算した額をクライアントが払ってくれるという保証と引き換えに、工事にかかるコストをすべて明らかにすることがある。交換の論理が制度化されていることもある。裁判に勝った場合にかぎって報酬をもらう契約をしている弁護士は、固定報酬の弁護士より平均するとたくさん稼いでいる。ひとつには次の理由がある。弁護士がどれだけの労力を投入するかは、クライアントにはほとんど把握できない情報だ。パフォーマンスに応じて報酬を払うようにすることで、クライアントは労力に関する真実の情報を「買う」のである。弁護士に、裁判に勝つために一所懸命働くモチベーションが生まれるからだ。

[4] ウソを本当にする

弁護士のブライアンは、クライアントの代理人としてビジネス紛争の調停に臨む準備をしている。調停に先立って、ブライアンはクライアントに、「私の権限で譲歩できることを2、3の重要な問題に限ってほしい」と要請する。そうすれば調停人と話すとき、「この問題については私には譲歩する権限がない」と真実を述べることができるわけだ。

この弁護士の場合、交渉の前に事実を変えることで、ウソへの誘惑を排している。ここには、より深いポイントがある。ウソをつきたいという気持ちは、たいていの場合、現実が自分の望んでいる状態と一致していないことを示している。そこから、他者に(さらには自分自身にも)現実を曲げて伝えるという行為が生まれるわけだ。現実を自分の望みに合わせて修正すれば、真実はもっと話しやすくなる。