[5] 未来の影を見据える

ネゴシエーターは一般にひどく近視眼的で、現在の決定が将来に及ぼす影響を過小評価するきらいがある。今現在、目の前にある損得はきわめて大きく見え、そのためネゴシエーターは信頼で結ばれた長期的な関係を築くメリットを見落としやすい。相互の信頼を築くことに十分な関心を注がないネゴシエーターは、ウソをつく可能性がそれだけ高くなる。

当然のことだが、人間は長らく付き合っている相手には、さほどウソをつかないものだ。しかし、ウソをつくことで危うくなるのは、過去ではなく未来なのだ。その意味で、過去が交渉の場にすこぶる長い影を落とすのに、交渉の当事者が未来の影にえてして気づかないのは実に興味深い。未来を見据えている人は、そうでない人よりはるかにやすやすと倫理的な行動をとることができる。とくに注目すべきは、そのようなネゴシエーターが、ウソをつくことに伴う倫理的・戦略的ジレンマを完全に超越していることだ。彼らは真実を述べることができ、しかもそうすることで利益を得ることもできるのである。

(翻訳=ディプロマット)