その一方で、不安もつのっていく。

「不払いという事態を防止しうる商品を新規に開発し販売するだけで、本当にお客様に満足してもらえるのだろうか」

つまり、「お客様に理解しやすい特約商品を発売しますから、旧前の特約契約から新商品への変更をお勧めします」といった、いわゆる業界用語でいうところの「乗りかえ」「転換」的な趣旨が少しでも見え隠れすると、既存顧客も市場も満足しないのではないかという思いが、つのっていったのだ。

「大切なことほど「フェイス・トゥ・フェイス」で話し合う」

そんな竹森が至った結論は、「入院・手術・通院関連の既存特約契約者も、新商品への契約移行が負担なく選択できるものでなくてはならない」ということだった。言ってみれば、自家用車についていた古いカーナビを、お金を払って最新のものに交換してもらうのではなく、売り手の都合で不具合が少なくなかったカーナビを、顧客の負担なく最新鋭のものに交換してもらおう、というわけだ。

竹森を中心とした商品開発部隊が、ようやくこのような商品「絵図」を描くに至ったのは、07年秋のことだった。ここで保険金支払いの前線部門を管轄する、保険金部担当部長の井藤と、保険金授受・支払いシステムの開発を担当する新統合推進部担当課長の中嶋が本格的に参加することになる。

井藤、中嶋ともに「既存の特約内容はわかりづらい」「営業職員でも完全理解は難しい」「顧客を誤った思い込みに導きかねない様式になっている」等々の思いにおいては竹森と完全に一致していた。が、縦割り意識が強い大企業の中で、部門ごとに異なる役割を抱えての一大プロジェクトである。誰の頭にも、一つ一つの決断において、それぞれの部門長や経営陣の許可を得なくてはならないという膨大な作業が予想された。

しかし、経営層の反応は拍子抜けするほどシンプルだった。

「課長層で決めたらええぞ」