「肝心なときに保険金が支払われない――」不払い事件の元凶となった複雑な特約制度。この特約の見直しを契機に、新商品開発へと立ち上がった「特命プロジェクト」の奮闘とは。
複雑怪奇な特約をシンプルにわかりやすく
「とにかく『わかりやすく』がキーワードです」
商品開発部課長・竹森一人はこう繰り返す。日本生命(以下、日生)は、08年10月2日、新商品である「総合医療特約・みらいサポート」の発売を開始した。
発売に合わせ、テレビCM等のPR活動に一斉に踏み切った。開発拠点となった大阪本社をはじめ、全国各拠点の目抜き通りに、同社のシンボルカラーである「赤」に染め抜かれた「みらいサポート」の幟が風になびく傍らで、日生の文字がプリントされた白いジャンパーを着た面々が、やはりこの日のためにつくられたティッシュペーパーと新商品のパンフレットを「日本生命で~す」と声を発しながら道行く人々に配ったのである。
業界では前代未聞という街頭活動を全国一斉に展開したという点だけでも、日生がこの新商品に込めた思いの強さが窺える。このキャンペーンには、今回のプロジェクトの中核となった前述の竹森、保険金部担当部長の井藤徹也、そして新統合推進部担当課長・中嶋順の3人も参加し、街頭で声を張り上げた。
すべての発端は、「保険金不払い問題」という生保業界の基盤を大きく揺さぶった事件だった。2005年2月、明治安田生命で最初の不払いが発覚してから、生保各社で次々に同じ問題が発覚。これら不払いの大方は、「主保険」部分ではなく、いわゆる「特約」部分で起こっていた。「家族特約」「医療特約」など、素人にはわかりにくい複雑怪奇な特約を商品につけ、実際は保険金が支払われるべきケースでも、契約者が指摘しない場合は支払いを行わないという事態が、業界ぐるみで行われていたのだ。こうして、08年7月、日生を含めた生保各社は不払い問題で金融庁から徹底調査・報告を命じられ、行政処分を受けている。