1000万人という業界最大の契約者を抱える日生は、他社に先駆け、不払いの元凶であった「特約」見直しに取り組んだ。まず、とにかく特約を「わかりやすく」、加入者が容易に内容を熟知しうる代物につくり変えるべく、プロジェクトが組まれた。そして、その新たな特約を組み込んだ保険商品を新発売するとともに、既存の加入者でも告知・診査なしに、特約の部分のみを切り替えることができる制度をつくり上げたのだ。

総合医療特約「みらいサポート」は次のような特徴を持つ。従来は6つの特約(契約)でカバーしてきた、入院、手術、通院等に関わる保障を一括ですべて担保する。手術に関しては、公的健康保険制度の保障対象となる手術に対し、給付金を支払う。さらに、従来の入院・手術関係の医療特約に加入していれば、誰でも新商品に切り替えることができる。

「課長層で決めたらええ」トップからの意外な反応

今回の新商品誕生までには、07年4月から、約1年半余の歳月が費やされた。

「まず、開発の入り口は、支払い記録の徹底的な点検、問題点の精査でした」

と竹森は語る。顧客の声を可能な限り反映して商品開発に臨むことにしたのだが、調べれば調べるほど、契約者の支払い請求時における、ため息と驚きが混じった肉声が次々聞こえてきた。

「入院医療特約というのは、所定の入院給付金と入院中に受けた手術費負担分が保障されると思い、日帰り手術でも保障されると思っていなかった」

「重度疾病保障特約に加入していたけど、自分は適用外と言われてしまった。障害状態の規定とやらがあったとは知らなかった……」

「特約変更制度」についてのパンフレット。新特約は、新規加入者向け商品に組み込まれただけでなく、既存加入者も特約部分のみを変更できる。

「特約変更制度」についてのパンフレット。新特約は、新規加入者向け商品に組み込まれただけでなく、既存加入者も特約部分のみを変更できる。

これらの基本的事由は、いわゆる「保険証券」だけでは確かに掌握できない。が、「約款」には小さな文字でその詳細が定められている。そもそも、この約款なるもの、とにかく詳細ではあるが「難解」なのである。極論すれば、営業職員はもとより、彼らを指導・管理する立場の支部長クラスでも、内容を整理して完全掌握している確率は、極めて低かったというのが実情だろう。顧客が理解できないことを前提にした「売り手視点」でつくられていたことは明白である。

「お支払い事由の抜本的改訂、つまり契約時に営業職員の難解な言葉を耳にしなくても、お客様自身が自ら容易に理解できるものに、改めなくてはいかんと痛感しました」と竹森は当時の心境を語る。

実態調査とそれをベースとした「不払い一掃可能」な商品開発・約款改訂の方向は、竹森の中で日を追うごとに「不可欠な方向」となっていった。