テレビ会議では体温が伝わらない

中嶋と井藤は社内結婚組で、業界に精通した妻の意見が支えにもなっていた。

深夜帰宅が10日も続いた中嶋が、ある日帰宅すると、リビングに置き手紙があったという。息子からのものだった。

「『お父さん、毎日遅くまでお仕事ごくろうさまです。頑張ってください』とありましてね。もちろん妻から言われてでしょうけど、この1年半余の中で、最高に癒された瞬間でした」と語る中嶋は、その紙をポケットに入れてしばらく持ち歩いていたという。

竹森の本来の席は東京本社にある。当初は週2回程度のペースで大阪入りし、それ以外の打ち合わせは、テレビ会議で行っていた。しかし、井藤は言う。

「画面越しでは、相手の正確な体温が伝わってこなかった。大切なことほど、フェイス・トゥ・フェイスでないと」

「終着駅は一致していた」3人衆は、それぞれの役割を果たしながら、必死に落としどころを探っていたのだ。目の前の協力者が本当に何を望み、何を思って言葉を発しているのか。それを互いに察し、少しでも早く目的の地に近づくためには、やはり相手の体温を感じられる距離で話し合うことが不可欠だったのだろう。

そこで竹森は、大阪にウィークリーマンションを借り、週末のみ東京に帰宅することにした。そればかりか最後はウィークリーマンションから、マンスリーマンションへと引っ越すことになった。

全社で数千人規模の人々を巻き込み、1年半余の結果、みらいサポートは無事世に送り出された。「1泊2日の入院で7万円も払って本当に大丈夫なの?」といった顧客からの反応も来た。

しかし、一度信用を損ねた業界に吹く風はいまだ厳しい。特約なしで手軽に入れるネット生保なども台頭している。

「価格では確かにネット生保に負ける。でも、私たちは、あくまでお客様と対面し、訪問後もじっくりフォローできます。そんな付加価値の部分で差別化できればと思っているんですよ」。

売り手の顔が見えるフェイス・トゥ・フェイスのサービスを売りにしたいのだと、大阪へ通いつめた竹森は語る。

営業のノルマ見直しや、事後のフォローを給与に反映させる試みが行われ、営業の離職率も減ったという。生保界の「ガリバー」が放った新商品は果たして「不払い撲滅の契機」となるのか。その答えが出るまでには、しばし時間がかかるだろう。(文中敬称略)

(浮田照雄=撮影)